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夏の夜のLabyrinth
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■揺れるグラスにサスペンスフィズ・1■




「……おや、ケンカ」
コンビニ帰りの仲文が、ぽつり、と呟く。
道路の真ん中で堂々とやっているのだから、嫌でも目に付く。
真夜中だから、可能な芸当、ともいえる。
ともかくも、君子危うきに近寄らずというわけで、仲文は知らぬ存ぜぬを決め込んで、脇を通りすぎようとしたのだが。
ぼぐっという派手な音がして、一人が殴られてよろめく。その拍子に、街灯に照らし出された顔を見て、足を止める。
「いけないなぁ、やりすぎだよ」
「?!」
いきなり加わった声に、殴った多勢の方も殴られた寡勢の方も、ぎくり、としたようだ。
街灯の下には、声と同様にのほほん、とした顔つきで立っている男が一人。
「何だぁ?てめぇは?」
多勢の一人が、いかにもなガラの悪い声を上げる。
「邪魔しやがるんなら、タダじゃおかねぇぜ?」
立派な脅し文句なのだが、コンビニのビニール袋を下げている仲文は聞こえているんだかいないんだか、のんびりと口を開く。
「だからさ、そこの彼ら」
と、目線で寡勢の方へと視線をやる。
「一人は肺炎起こしてるでしょ?それに、もう一人だって、さっきので肋骨痛めちゃってるだろうし……」
さっと、もう一度視線を走らせてから、続ける。
「コレ以上やったら、君たち殺人犯確実だよ」
すぐに、多勢たちが反応する。
「るせぇよ、余計な口出しすると、てめぇがケガするぜ?」
「そうだ、アンタには関係のない話だろう?」
穏やかではない物言いだが、相変わらず仲文は動じていない。
「そう、俺、関係無いんだよね、だけど道の真ん中ってのが迷惑だし、それに職業倫理ってヤツがうずいちゃってさぁ」
言われて、多勢は少し警戒を強めたようだ。ケンカしてるので職業倫理なら、警察の可能性がある。が、それならば警察手帳が先ず出てくるはずだ。
と、すれば、ただのお節介。多勢はそう判断したらしい。
口で言ってわからないなら、と力に訴える方に移る。
「てめぇ、言わしとけば!」
言葉と共に、拳が飛んでくる。
仲文は、避けついでに街灯の影にコンビニの袋を置く。
上げた顔には、さきほどまでののんびりとした表情はない。ニヤリ、と笑みが浮かんでいる。
「後悔するよ」
「てめぇがな!」
今度は、容赦無く、多勢全員が向かってくる。
「さーてね」
言葉と共に、肘鉄と回し蹴りが一度に炸裂する。
回し蹴りで飛ばされた男に当たって吹っ飛んだ奴をいれて、一気に半分が片付く。
仲文の口元に浮かんでる笑みが、少し大きくなる。
「医者にはケンカ売らない方がイイと思うけどね、急所知ってるんだから」
残った連中は、少し、後ずさる。
「くそっ!」
一人で向かった愚か者がのされて、残りは二人。
敵わない、と判断したらしい。
のされた連中を引き起こして、背を向ける。
「憶えてろ!」
という、いかにも小者な捨て台詞を残して。
仲文は、べろり、と舌を出してみせる。
「だーれが、てめぇらの為なんかに貴重な脳細胞使うかっての、それじゃなくても二十歳過ぎから日々減ってるんだぜ」
軽口を叩きながら、コンビニのビニール袋を拾い上げる。
それから、寡勢の方へと振り返ったのだが。
仲文が多勢を相手にしている隙に、場を立ち去ろうとしたらしい。
が、殴られたせいで思うようには歩けないらしく、目論みはまったくの失敗に終わっている。ようは、まだ目と鼻の先にいるということ。
「あのー、その躰でどっか行くのは、無理だと思いますけど」
最初と同じ、どことなくのほほん、とした口調で仲文が言う。
相手は、聞こえているはずなのに足を止めようとはしない。
仲文は少し目を細めてから、もう一度口を開く。
「……彼を連れ出すことは、禁止されているはずですよね、ドクター・ワトソン?」
相手の、足が止まる。
そして、振り返る。
ぐったりとした誰かを肩で支えている男は、だいぶ殴られたらしく、ひどい顔つきだ。
が、眼光はかなり鋭い。
普通の人間なら、ぎくり、とするほどに。
「お前も、あいつらの手か」
「止めてくださいよ、あんな阿呆な連中と一緒にされちゃたまらない」
「そうじゃないなら、なぜ僕を知っている……?」
警戒だけが、彼の眼に浮かんでいる。状況的に、仕方ないのかもしれない。
あれだけ殴られれば、一人立っているのだけでも必死のはずだ。それが、もう一人を支えて歩いているのだから、相当の緊張があるに違いないし、そうしなくてはならないと彼は思っているのだ。
仲文は、軽く肩をすくめる。
「医学学会に所属していて、プリラード最高と言われるあなたを知らないのはモグリでしょう?それに、何度かお話させていただいたこともあるんですけど……眼鏡かけてないとわかりませんかね、リスティア国立病院外科部長の、安藤なんですが」
「アンドウ?」
相手は、微かに目を細める。
「遅行性細胞破壊症に関する論文を発表した……?」
「ええ、その安藤です」
「ああ……」
相手は、微かに警戒の色を緩める。どうやら、私服の仲文にスーツと眼鏡を補完して認識したらしい。
「あなたでしたか、失礼しました」
ちら、と自分の肩で支えている人へと視線を向ける。酷く、心配そうな視線を。
それから、仲文へと視線を戻す。まっすぐで、真摯な瞳だ。
「これには、深い事情があります。どうか、そっとしておいてもらえませんか?」
「あの連中が、あのまま諦めるようには見えませんがね、どっか行くあてはあるんですか?」
「……ワトソン」
ワトソン、と呼ばれた彼の肩に支えられている男が、苦しそうな息の下から、微かな声を出す。
心配そうに、ワトソンが覗きこむ。
「どうした?大丈夫か?」
「……彼が、君がよく話していたドクター・アンドウ?」
「そうだよ、こんな時でなければ、歓迎すべきなんだけど……」
それほどに追い詰められているはずなのに、ワトソンは律儀な返事を返す。
「君が言うほどの人物なら、彼とも知り合いかもしれない……」
言われて、ワトソンもはっとした顔つきになる。仲文は、首を傾げる。
「彼……?アテがある?」
一瞬、逡巡したようだが、肩で支えている人物の言うことを無視することができなかったらしい。
「リスティア総司令官、ミスター天宮……」
ぽつり、と呟くように言ったのを、仲文は聞き逃さない。
「それなら、俺、すぐに連絡取れます」
「本当、ですか?」
頷いてみせて、携帯を取り出す。
「よかった……」
あからさまに、ほっとした表情がワトソンの顔に浮かぶ。
そして、よろめくようにその場にしゃがみ込んでしまった。



亮がなにをやってのけても基本的には驚かないつもりでいるのだけど、思わず聞き返してしまう。
「もう読み終わったのか?」
忍に驚かれたので、亮は少々すまなそうな顔つきだ。
「はぁ、面白かったので、つい……」
手にしているのは、忍が貸した推理モノだ。亮が読んだことがないというので、シリーズモノの最初を貸してから、まだ一時間は経っていない。
複数モニターの情報を一度に認識しようと思ったら、確かにかなり早く文字を読み取らなくてはならないのはわかる。が、自分がどんなにがんばっても二時間はかかる本を、これだけの早さで読まれれば、やはり驚いてしまう。
亮は少し困った表情のまま、軽く首を傾げてみせる。
「もしあったら、続きを貸してもらえないかと思って」
「もちろん、気に入ってよかったよ」
忍は、にこ、と笑うと積み上げてある本の山に向かう。
「なんだったら、あと二冊くらい持ってく?」
「あると読んでしまうので……」
返事をしかかったところで、二人の顔つきが変わる。
亮の部屋から聞こえているのは、総司令官の直連絡だと告げる着信音だ。
すぐに部屋に戻り、亮は携帯を手にする。
が、すぐに亮は軽く眉を寄せる。
「なんの用なんですか」
亮の表情が奇妙なので、忍も反対側から耳を寄せる。
『冷たいなぁ、ちょっと変わった来客だから、会いたいかと思って連絡したのになぁ』
なるほど、この緊迫感のなさで亮は眉を寄せたらしい。
「変わった来客?」
『そ、お前もミステリー好きだろ?ホンモノに会えたらなーなんて、思っちゃったりしない?』
そう言われて、亮には健太郎が何が言いたいのか、わかったらしい。
常に起動させてある端末に向かって、素早くなにか入力する。忍にも、どこかの情報を覗いているのだというのは、すぐにわかる。
「確かに、相応のが動いてるようですが……彼は出国どころか、建物を出ることすら禁じられているはずです」
『そう、だけど、現に仲文のところにいるんだよ、相棒と一緒にね』
「仲文のところに?」
『ああ、偶然だったみたいだけどさ。ともかく、状況確認してくれないか、微妙すぎて、俺もそうそうには動けない』
「……わかりました」
携帯を切って、亮は忍の方へと視線を上げる。
忍が、首を傾げる。会話は聞こえたが、話が全然見えない。
が、仲文のところへ向かうのが、総司令官からの指令であることは確かだ。
「俺はどうしようか?」
「お願いします」
すぐに、キーを持ってくる。

車を出してから、忍は改めて訊く。
「誰が、仲文のところにいるって?ミステリーのホンモノってどういうことだ?」
助手席から外を眺めていた亮が、視線をこちらへと戻す。
「言葉通りですよ、推理小説の探偵たちで、最も有名なのは誰かと訊かれたら、誰を思い浮かべますか?」
「そうだな、総合的には、やっぱりシャーロック・ホームズじゃないかな」
「もしいるなら、会ってみたいですか?」
「そりゃ会ってみたいと思うけど……」
そこまで言って、忍は口をつぐむ。物語通りの人物が、実際に存在することなどありえない。
たった一つの可能性を取り除けば、だが。
亮の顔に、奇妙な表情が浮かぶ。健太郎からの連絡を受けたときの、怪訝そうなものとは違う。どこか、痛みを含んだ顔だ。
「そうですよ、彼は実在します、旧文明産物として」
どう返事を返してよいかわからず、忍はギアにかけた手に軽く力をいれる。
「人工生命体ではなくて、確率計算から彼となるにはどんな遺伝子配列が必要かを算出したようですが、寿命を延ばす為に、アーマノイドと同じ機構が埋め込まれています」
淡々とした口調で言ってから、亮は軽く胸を指してみせる。
『生命機器』のことだ。これがある限り、肉体は滅びることはない。が、中枢機構を知る他人に、操られる危険性がある。
一昨年にドクターが起こしたアーマノイド反乱のおかげで、いまはかなり規制が厳しくなっている。アーマノイドを産み出すことはもちろん、存在も認められていない。
「彼も規制対象です……だから、プリラード首都にある科学研究所から一歩も出ることが許されていない」
「それで、なにかが動いている?」
「Pの追っ手がかかっています」
「Pって、プリラード秘密警察のことか?」
映画などではよく出てくる、大国プリラードの諜報関連をになう部署だ。アファルイオ特殊部隊ほどではないが、その職務内容はほとんど明かされることがない。
「ええ、そのPです」
「それって、マズくないのか?」
「だから、ウチに連絡が入ったのでしょう」
亮は、口元に微かな笑みを浮かべる。
のほほんとした口調だからといって、総司令官たる健太郎の思考回路までがのんびりしていたわけではないらしい。誰ならプリラード秘密警察に対処できるかまで、考えているようだ。
「なるほど、それで俺も、か」
手の届く場所には、得物である龍牙剣がある。
ひとまずは怪しげな気配も無く、仲文の家へとたどり着く。
亮の持っている合鍵で入ると、物音に気付いたのだろう、仲文が顔を出す。
「あ、丁度よかったよ、どっちも落ち着いたし」
「どっちも?」
亮が首を傾げる。
「単独脱出はどう考えても無理でしょ」
言ってうるうちに、どっちも、の片一方が顔を出す。
口元にばんそこっぽいモノが貼られているのが痛々しい以外は、かなりの美男子だ。服は仲文のを借りているらしいが、そうサイズは外れていない。
すこし、だぶついているところを見ると、仲文よりさらに細いらしいが。
年は仲文と同じくらいだろう。なによりも、瞳がとても優しい、と忍は思う。
「ドクター・ワトソンですね」
亮には誰なのか、すぐにわかったようだ。呼んだ名を聞いて、忍は思わず繰り返してしまう。
「ドクター・ワトソン?」
「そう、プリラードの遺伝子工学の権威で、科学研究所の特別研究員でもあるドクター・ジョン・ワトソンだよ」
仲文が紹介してくれるが、やはり忍の瞳は大きくなったままだ。
「ええと……その……?」
たしかに、ホームズの相棒と言えばワトソンだ。が、だとすれば、だ。彼も旧文明産物なのかもしれない、とは思うが、まさか当人を前には尋ねられない。
戸惑っているうちに、仲文がワトソンに亮たちを紹介する。
「彼らが、総司令官直属で動いてくれます、亮と忍」
亮は軽く頭を下げてみせてから、告げる。
「まずは、事情と状況の確認をさせてください、次第によっては、協力は厭いません」
「総司令官殿の配慮に感謝します」
ワトソンは、深々と頭を下げる。
「事情は、どの程度?」
「あなたが、彼を連れて脱出したということ、追っ手にPが動いていることのみです」
「わかりました、ご説明します」
仲文が口を挟む。
「立ち話もアレだから、こっちで話そう」
まだ戸惑ったままの忍には、笑顔を向ける。そして、耳を寄せて教えてくれる。
「ドクター・ワトソンは、正真正銘、普通の人間だよ」
「あ、どうも」
思わず礼を言ってから、思う。にしては、ずいぶんと出来すぎの組み合わせだ、と。

仲文の家に来るのは、忍は初めてだが、かなり広いようだ。なんといっても、一軒家なところがスゴい。
通されたのは居間らしく、すわり心地のいいソファが置いてある。
亮が、手早くお茶を煎れてきているうちに、ワトソンが『彼』の様子を見てきたようだ。
「どうです?」
と仲文が尋ねると、笑みを浮かべて頷いてみせる。
「だいぶ熱も下がってきたみたいです」
「それなら、よかった」
合い向かいにソファに腰を下ろし、それから話を始める。
「一昨年に起こったアーマノイド関係の事件に関しては、リスティアの方のほうが、良くご存知かとは思いますが……」
少し視線を落としたまま、ワトソンは話し出す。
「あの件の後、各国では秘密裏にアーマノイド狩りが行われたことはご存知でしょうか?」
亮が頷いてみせる。
「矢野博士が創り出したものに関してはあの件で壊滅状態になりましたが、他、も存在しましたから」
沈黙が降りる。
アーマノイドになったとしても、それでも、彼らだって生きているのに。
誰かが望んで、そうして生まれてきたのに。
あの事件ゆえに、疎まれる存在となったのだ。
悲劇的な末路を辿った者が、いったい何人いたのだろう?
気を取り直して、ワトソンが続ける。
「彼、シャーロック・ホームズは、アーマノイドではありませんが、『生命機器』を保有しています……彼の扱いをどうするかに関して、プリラードで彼を知る識者の間で、かなりの議論が戦わされました」
ワトソンの眉が、恐らくは無意識のまま寄せられる。
「議論は、最終的に二派に分かれました……『生命機器』を取り外し、通常の人としての生を全うするならば、問題はないというものと、それから」
きゅ、と手を握り締める。口にすることすら、辛いらしい。
「それから……こちらが多数を占めたのですが、『生命機器』のコントロール機能を強化し、特殊兵器として利用する、というものに」
「んな……」
思わず、忍が声を上げてしまう。
ワトソンの顔に、亮が時々浮かべるような、痛みを含んだ表情が浮かぶ。
「元々……それを目的に産み出されたんです、彼は……シャーロック・ホームズは、変装の名人であり、あらゆる階層に潜り込むことができます……プリラード秘密警察にとっては、またとない切り札になりえます」
「制御を加えられるのならば、尚更ですね」
亮が、抑えた声で問う。『生命機器』による制御を強めれば、感情をもコントロール可能になる。
ワトソンは、頷いてみせる。
「いままでも、彼は旧文明で生み出されたからというだけの理由で、人として扱われていません……でも、彼には意思も感情もあるんです、人と変わりません」
声が、いくらか大きくなる。
「『生命機器』を取り付けられたのだって、産み出した人間の勝手な思惑だったんです、彼が望んだんじゃない!」
思わず声を荒げてしまったことに気付いたのか、少し赤面して口をつぐむ。軽く、息を吸ってから、ぽつり、と付け加えた。
「彼は僕の大事な友人です、兵器にされるのを黙って見ているなんて、出来ない」
「研究対象ではなく?」
仲文が、静かな声で尋ねる。学会でのワトソンを知っている。怜悧で理論的な学者肌の男だと思った。
自分も多分にその傾向があると思うが、割り切れば感情さえも押し殺すことの出来るタイプ。
ワトソンの顔に、自嘲するかのような笑みが浮かぶ。
「最初、彼と会う前はそうでした……崩壊戦争前から命を永らえている者はいませんし、遺伝子工学を志す者として、計算がどこまで正確に反映されているのか、興味もありました」
「でも、友人になったんですね」
忍が、にこり、と微笑む。つられたかのように、ワトソンにも笑みが浮かぶ。
「ええ、ワガママに振り回されることもありますけど、本当はとても優しいんですよ、照れくさがって隠してしまいますけど」
ふと隣を見ると、亮の顔にも微かに笑みが浮かんでいる。
「それにしても、随分、無茶な脱出をしましたね?」
「穏当な脱出方法を準備してたんですが、僕が学会に行っている隙を狙って、強硬手段に出られてしまって……数日帰国が遅くなっていれば、彼らの思うままだったでしょう……時間が無かったんです」
そこまで言ってから、はた、としたようにズボンのポケットから、白い封筒を取り出す。
「総司令官殿に、これを」
道路での一件で、少々くしゃくしゃにはなっているが、汚れはない。
裏返して、印章を確認した亮は、微かに首を傾げてみせる。
「代理ということで、よろしいでしょうか?」
「はい」
ワトソンが頷くのを待って、亮は封筒を開ける。潔いくらいの白い便箋に書かれた文字を追う瞳に、笑みが浮かぶ。
「これは……断れませんね」
「亮……?」
怪訝そうになる忍に、亮は便箋を手渡す。
「いいのか?」
「ええ」
素早く目を通しはじめた忍から、ワトソンへと亮は視線を戻す。
そして、にこり、と笑う。
「ホームズ氏とあなたのことは、Labyrinthが責任を持って守りますよ」
「ありがとうございます」
ほっとした表情が、ワトソンの顔に浮かぶ。
読み終えた忍も、にこ、と微笑んだ。
「ええ、必ず」
「ホームズ氏の『生命機器』を取り除いてしまえれば、秘密警察も諦めるでしょう」
静かな口調だが、その顔に浮かんでいる表情は、すでに軍師そのものだ。
「だが、すぐに手術するのは無理だ」
仲文が口を挟む。ワトソンも頷く。
「ええ、いまのホームズは消耗しすぎていて、手術には耐えきれません。あと二日は待つ必要があります」
亮の口元の笑みが、大きくなる。
「では、先ず、プリラード秘密警察に諦めてもらうことにしましょう」



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