14 □ その星を創る
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白い、無限の空間の中に、男は立っている。
正確には、立っているのか浮いているのか定かではない。が、どうやら足元はしっかりとしているようだ。
軽く踏み鳴らしてみた男は、そう確信する。
ややの間の後。
また、誰かの声が聞こえる。
「お疲れ様でした。次の貴方の人生ですが」
つ、と伸びてきた何かを、男は素早く払いのけて、ひねり上げる。
ころり、と何かが転がり落ちる。
ソレを、相手が拾う前に蹴り飛ばす。
何かに当たって砕けたソレは、嫌な色の何かを発して消滅する。
「やっぱりな、そんなこったろうと思ったよ」
不機嫌に男に睨みつけられた相手は、戸惑った表情で左右を見やる。
そう、いつも男に運命とやらを授けてきた何者かは、反対の手もひねり上げられたカタチになっていた。
なのに反対の手の先は、見えない。
そんなこと、あるわけない。
「よう」
相手の手の先の、何もないはずの空間に、男は笑みを向ける。
霧が晴れたかのように、にこり、と見慣れた彼の笑みが返る。
白皙で切れ長の目で、視線の高さ以外は男と対としか言いようのない彼が。
「案の定、というところかな」
「ああ、俺たちがいがみ合うよう、何か仕掛けてやがった」
睨みつけられて、何者かは、悲鳴のような声を上げる。
「必要だからです、過ちを犯さぬ為に!」
「言ってくれるな、俺らはシミュレーションが無きゃ失敗するって?」
「ずい分と見くびられたモノだね」
男の声が尖り、彼の声が低くなる。
「そんなくだらん理由で殺し合ったかのような気にさせられるなんて、まっぴらゴメンだ」
「アナタにどのような権限があるのか知らないが、この件に関しては断固拒否だ」
何者かは、怯えたような目で二人を交互に見やる。
「もう、よくわかったでしょうが、何時であろうが何処であろうが、世界を動かす命運なのです。万が一にも失敗したら」
「みえみえのウソは止めた方がいい」
遮った彼は、いくらか目を細める。
「心配しているのは、二人で世界を滅しにかかられたら困る、違うか?」
何者かの目が、明らかな返答だ。
が、男は不信そうに眉を寄せる。
「だとしても、人生やってる間は何も覚えてないのに」
「いいえ、心の奥底が覚えています」
何者かは、己を正当化したかったのだろう、すぐに返してくる。
男は、肩をすくめる。
「なら、簡単だ。間違ったら片方消すって言や良かったんだよ」
驚いて目を見開いたのは何者かで、珍しく声を立てて笑い始めたのは彼だ。
「確かに、二人で調子に乗るなというなら、余計な殺し合い見せられるより、よほど効果的だ。それを敵か味方かわからん相手に、あっさり言うあたりはお前らしいけど」
男は、これまた珍しく、いくらか情けない形に眉を下げる。
「だって、幻だろうがお前を憎いとか、イヤなんだよ」
「まあな」
彼も、ごくあっさりと頷く。
「……わかりました」
何者かは、ため息まじりに頷いてみせる。
「本当なら、こんな介入は許されませんが、同時に命運に抗ったことに免じて、言う通りにしましょう」
両の手をゆるやかにほどき、姿勢を正す。
「改めて、貴方方を次の人生に送り出します」
光が、見え始める。
「今回は、今まで以上の困難が待つでしょう」
男と彼は、どららからともなく視線を合わせる。
ご大層な使命などという面倒なことを背負うのは、ご遠慮願いたいのに変わりはないけれど。
「それでも、やれるだけはやるよ」
「やってのける気満々だろう」
「お前と一緒ならな」
同時に笑みを浮かベると、迷わず歩き出す。
またとない親友と出会い、手を携える命運だけは変わらない。
それがわかっているのだから、どんな困難な人生にだって踏み出せる。





2008.12.16 Sworn F 14 -They determine the destiny.-

■ postscript

そして、男と彼とは新たな生へと。

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