『 星降ル夜 弐 』



満天の星の、空を見上げる。
何ヶ月ぶりだろうか、と思う。
ひどい痛みもけだるさも、もうない。
回復してきたからではない。
本当は起き上がることさえ拒む躰を、騙したのだ。
あの男が帰ってくると、知ったから。
別に、なにか告げたいことがあるわけではない。
そんな感傷的なものは、似合わない。
望んだのは、自分らしくありたいということ。
主君と決めた、あの男の前では。
ひときわ大きく輝く星が、あの男の星。
こうして大地を踏み、たしかに息をしているのに。
己の星の輝きは、もうほとんど見えない。
あの男の足音に、振り返る。
病のはずの彼が外にいるのに、驚いた顔をしている。
「風は、まだ冷たいぞ」
病身を気遣う言葉など、らしくない。
それがおかしくて、笑顔になる。
「俺の言うとおりだったでしょう?」
兵は神速を尊ぶもの。
そう言って、病身の自分を置いて進軍するよう進めた。
結果、男は勝利を手にして戻ってきた。
「確かに、お前の言うことはいつでも正しいよ」
「殿は、前に進むのがよく似合います」
「ああ、お前も一緒にな」
「前へ進むことを、止めないでくださいよ」
「止めるように見えるか?」
にやり、と男は笑う。
もしかしたら、この笑顔が見たかったのかもしれない。
なにもかもを、その手で掴むことを疑わない笑顔。
叶うならば、もっと前へと歩みたかった。
この男と一緒に。
「なにが、あったとしても」
そして、満天の星も男の顔も。
霞んで、消える。


〜fin.
2001.04.07 Meteoric Showery Night II

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蛇足!
曹操と郭嘉って、あまり多くを語らないかなと。
それでいて、認め合ってる主従という気がしております。
そして、二人とも、負けず嫌い(苦笑)。


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