『 星降ル夜 参 』



細い空を見上げる。
無限に広がる天の、ほんの一部。
それが、いま望むことのできる唯一の外界。
もはや天とは言えぬほどの細いそこから。
星が流れていく。
幾筋もの星が、躊躇うことなく。
星が流れるときとは。
人が命落とすとき。
自分が唯一望めるその方角に流れるということは。
命落としたのは、味方の将兵たちということ。
見上げた眉が、哀しげに寄せられる。
いったい、どれほどの犠牲が出たのだろう?
自軍は、撤退を余儀なくされたろう。
主人も、近く帰還する。
落ちゆく星の中に、主人の星はない。
だが、その光はあまりにも、弱い。
命旦夕なためでは、ない。
時流に乗れず、飲み込まれる星。
ここからは、見えぬ天に。
あの星を飲み込む、光り輝く星がある。
主人がなそうとすることが、誤っているわけではない。
ただ、あまりにも。
時期を逸しており、そして無策だ。
苦しむのは、配下達だけではない。
戦に若い働き手を奪われ、穀物を奪われ。
敵軍に真っ先に蹂躙されるであろう、無辜の民。
いまなら、まだ。
追ってくる者たちを退ける策はある。
だが、主人は聞く耳を持つまい。
与えられるのは、刃であろう。
それで、いいのかもしれない。
滅ぶべきかもしれない。
民の声が聞こえず、真に主人を思う声が聞こえぬ者は。
そして、そのような主人と見抜けなかった己も。
星が流れ終わった空は、ただ、黒い。


〜fin.
2001.04.14 Meteoric Showery Night III

**************************************************

蛇足!
監獄から夜空見上げてるのは、田豊。
もちろん、主君は袁紹です。
もったいないとは思いますが……


[ 戻 ]