『 桜ノ森満開ノ下 拾壱 』



今年もまた、桜が咲く。
柔らかな花弁を風に揺らしながら。
我知らず、眉を寄せる。
この、白ともとれるほどに薄い花々を、どうにも好きになれなくて。
人は、健気と言う。
空を染め上げる勢いで、咲き誇る花たちを。
ほんの数日咲き誇っただけで。
はらはらと、その身を散じていく様さえ。
美しいと言う。
どこが、と唇を噛み締める。
地面へと叩きつけられた花弁は、踏みつけられ、踏みにじられ。
やがて腐って、消えていくだけなのに。
人間とは、愚かな生き物と強く思う。
刹那しか見えぬ、哀れな生き物。

かつて、この花を愛した男がいた。
一時に咲き誇り、そして、あっという間に散る桜を。
己に似ているから、と言い。
男は言葉通りに。
桜が散るかのごとく、ある日突然。
消えてしまった。
もしかしたら。
その時から、こんなにはっきりと嫌いになったのかもしれない。
まるで、咲き誇る花々が。
唯一無二の親友であった男を、奪い去った気がして。
まるで、子供のような、感情。
でも、どうにもすることの出来ぬ想い。
思い出すのは、笑顔ばかりだ。
そして、言ってのける声。
どうせなら、天下を狙わないとな。
大言壮語だったりしてな。
からかう自分の、背を叩く。
俺一人なら、そうかもしれない。
だけど、二人一緒なら。
空も飛べる。
そんな気がしないか。
そう言って、空を見上げて笑った。
あの日も、こんな空だった。
薄紅に染まっていた。
あの時、自分は薄紅の空を目を細めて、見上げていた。
この桜の空を、上から見つめたら、さぞ美しかろう。
そう、答えた気がする。

だけど、桜の花は散り急ぐ。
地面に落ちれば、その淡い色彩は見る影も無い。
人の足に踏みにじられ、やがては腐敗していくのに。
視線の先の小さな花々が揺れる。
健気などではない。
むしろ、傲慢なのだ。
己の信じるままに咲き狂い。
己の勝手で散っていく。
花を望みつづける人の気持ちなど、なにも考えることも無く。
それでも人は、花を見上げて目を細める。
なににも捕らわれぬ花に焦がれながら。
花に捕らわれ、見つめ続ける。
桜は嫌いと言いながら。
自分も花を、見上げている。


〜fin.
2003.04.13 Under the full blossom cherry trees XI

**************************************************

蛇足!
自分は周瑜で、男は孫策。
なんでか、孫策と周瑜を書こうとすると、孫策すでに死んでるんですが(遠い目)。


[ 戻 ]