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夏の夜のLabyrinth
〜20th 蒼惑星〜

■eternal・26■



皆、一様に笑顔を浮かべたところを見ると、それぞれに用意したようだ。
「忍からで、いい?」
「いいよ」
にこり、と柔らかに笑みを浮かべると、スーツのポケットから、なにかを握り締めて取り出し、広げる。
「あ!」
なんの包装もされてないソレを見て、思わず声を上げたのは俊だ。
手の平に転がっていたのは、忍の得物である龍牙剣についている勾玉そっくりの、キレイな蒼の玉だったから。
「これって、レプリカ?」
須于が、覗き込みながら首を傾げる。
「いや、ホンモノ」
あっさりと忍は言ってのける。
ジョーが、無言のまま、怪訝そうに片眉を上げる。
「旧文明時代の俺がシャフネ最高の戦士と呼ばれた理由のヒトツは、神出鬼没だったからで、その種明かしがコレ。一度侵入した場所にはめ込めば、いつでも瞬間移動可能ってわけ」
そこまで言われれば、話は見える。
アグライアで、勾玉を握っていて、龍牙を呼び出してみせたのと同じコトをしていたわけだ。龍牙と一緒に、本人も移動してのけて。
ヒトツずつ、それぞれの手に配っていく。
「リュトス、ファーラ、ナタプファイレギュラー居住区域、ナタプファ中枢」
ジョー、麗花、須于、俊の手に。それから、脇に置いてあった龍牙から、ヒトツを解く。
それは、亮の手に。
まじまじと見つめてから、俊が首を傾げる。
「これ、もしかして?」
「そう、本当にソコに埋まってたの、つい最近までな」
くすくすと麗花が笑う。
「呼び出した?」
「ああ、俺が行けるなら、逆も出来ると思ったら、案の定」
相変わらず、いつも通りの笑顔だ。
「確かに、忍らしいわ」
須于が、くすり、と微笑む。
「いつでも、困った時には駆けつけてくれそうだもの」
「呼んでくれれば、な」
にこり、と笑みを大きくする。言葉どおり、この『Aqua』のどんな場所にいたとしても、本当に忍なら駆け付けてくれそうだ。
「んじゃ、次はジョーね」
「ネタが被り気味だが、な」
取り出したのは、銃弾だ。
「ホンモノのカリエ777の弾だ」
言いながら、五人の手に配る。亮が、軽く首を傾げる。
「この文様は、なんですか?」
いくらか照れ臭そうな笑みが、ジョーの顔に浮かぶ。
「和尚に頼んで、守護印を刻んで念をこめてもらってある」
「守護の死神らしいお守りね」
須于が、微笑む。麗花も頷く。
「うわ、俺、冴えねぇかもなぁ」
言いながら俊が取り出して見せたのは、花の種。
「調べてみたら、案外、旧文明時代からの種ってあってさ、ま、これはその中でもとっとき」
それぞれの手に、小さなそれを渡していく。
「旧文明時代から、ずっと取っとかれてたヤツ」
「よく、手に入ったな?」
ジョーが、感心した顔つきで首を傾げる。俊は、言われて苦笑気味に微笑む。
「実は、旧文明だから手に入りやすかったんだよ、やっぱ敬遠されがちだからさ」
「なーるほど」
と、麗花。須于も、微笑む。
「でも、私たちにとってはステキな宝物ね」
「そう言ってもらえると嬉しいけどな」
「私は、コレ」
須于も、皆と負けず劣らず小さなモノを取り出してくる。それは、キレイに透き通った結晶体だ。
それぞれの瞳の色を映したような色は、かなり眼を引く。
そして、なにかを思い出させる。
麗花が、眼をきらきらさせる。
「ね、これってもしかして?」
「うん、やってみて」
紫を映した石を、麗花は手にしてかざす。ちょっと集中した顔つきになると。
ぽう、と淡く、地球の姿が浮かぶ。
「すっげぇ!」
「コレ、須于が作ったのか?」
俊と忍も、興奮気味の顔つきだ。
須于は、こくり、と頷く。
「幻影片を見ながら、作ってみたの。小さいし、あまり画像も鮮明とは言えないんだけど」
亮も晴れた海の色の石を光にかざしながら、にこり、と微笑む。
「いえ、とても良く出来ていますよ」
「ああ」
ジョーも、頷く。
麗花へと須于は首を傾げてみせる。
「麗花は、なぁに?」
「私はねぇ、コレ」
出して来たのは、皆よりは二周りほど大きい。機械仕掛けのそれがなになのか、言われずともわかる。
「オルゴール?」
「そ、ちょいとプロに作ってもらっちゃったよーん」
麗花の言うプロが誰なのか、忍たちにはすぐわかる。蔵の中にあるかもしれないという旧文明産物の調査で、クオトの奥街へ行く途中で寄ったオルゴール館のオルゴール職人、李薫芳氏だ。
アファルイオ国宝級のオルゴールを作りだす腕があるのに、わけあってリスティアの小さなオルゴール館にいると知って、麗花だけでなく、亮もかなり驚いていた。
が、その後、俊の発案と健太郎のはからいで、相応の腕を発揮できる場所へと行っている。
ひょいひょいと五人の手にオルゴールを配りながら、麗花は笑顔で報告する。
「健さんたら、いたれりつくせりでね、アファルイオとの間にあった問題もぽいされちゃったみたいよ」
「有用な人材には、甘いんですよ」
亮が、にこり、と微笑む。須于も、笑顔を大きくする。
「じゃ、いつかはアファルイオにも帰れるのね」
「フォローしには帰るって言ってくれた。でも、健さんたちにものすごく恩を受けたから、恩返ししたいってさ。もちろん、俊にもね」
「え、あ、そう?」
俊は、戸惑ったような照れたような顔つきだ。
忍が、笑みを大きくしつつも、軽く首を傾げる。
「で、鳴らしてみてもいいのかな?」
「うん、やってみて」
小さく圧縮するのに、かなり特殊な造りになっているようだが、スイッチはわかりやすいところにある。
押すと。
「ああ」
「これか」
ジョーと忍が、すぐに納得した声を上げる。須于と俊は、不思議そうな顔つきだ。
「『覚醒』の歌ですよ」
亮の言葉に、きょとんとしていた二人も、思わず微笑む。
麗花が、照れ臭そうに笑う。
「私の声うつしてもらうのもどうかなーとか思いはしたんだけどね、よくよく考えてみると、誰も聞いたことなかったんだよね、肝心のをさ」
過去の『解放』の時は、どこでなにをしているのか知っていたし、確かに繋がっていた。
信頼、という糸で。
でも、なにをしてきたのか、どうだったのか。
後から、語り合うことは、出来なかった。
二度と、会うことは出来なかったから。
だから、過去の麗花がファーラと呼ばれていたアファルイオで、どんな歌を歌ったのか、誰も知らない。
オルゴールの音になったそれは、どこか柔らかで、それでも麗花らしく強い旋律で響く。
「ステキ、ありがとう」
須于の笑みに、麗花も、くしゃ、と笑う。
五人の視線は、ごく自然に最後の亮へと集まる。
亮は、軽く肩をすくめてみせる。
「僕からは、コレです」
言葉と共に、取り出したのはキレイな細工の小箱だ。
麗花は、その蓋の細工の細かさに眼を輝かせる。
「すっごい、リマルト公国の細工の金属版だね?」
「リスティアは湿度が高いので木よりも金属で加工済みのモノのの方が小物はうけるんですよ」
俊が、不思議そうな顔つきになる。
「でも、そんな話聞いたこと無いぞ?」
「ええ、本格的な発売は来年になるでしょうね」
どうやら、亮はフライングをしてのけたらしい。リマルト公国復興関係には、天宮財閥も随分と噛んでいる。その一部は、亮が仕掛けたモノなのに違いない。
「これ、もらったものが皆ちょうど入るようになってるのね?」
蓋を開けた須于が、感心した声を上げる。五つの小物が、キレイに収まるように出来上がっている。
旧文明産物を手渡していいモノか、相談する相手は亮しかいない、しかも、皆が皆、それぞれに亮に相談していたおかげで、亮は細かいものが出揃うことを最初から知っていたわけだ。
「なぁ、この蓋の裏にあるスイッチなに?」
「モニターか?」
俊とジョーが、首を傾げる。
「なるほど、アルバム。クリスマスの時のも、入れてくれたんだな」
問う前に試してみた忍が、にこり、と笑う。最初に入っていたのが、十四年前のクリスマスに広人が撮ってくれた集合写真だったのだ。
「この三年間で、随分と写真を撮りましたよね、普通のアルバムでは収まりきらないくらいに」
亮も、穏やかな笑みを浮かべる。
「あはははは、これ、遊撃隊最初の写真〜!」
写真を開いた麗花が、いきなり大笑いする。
皆して、麗花の見つめる写真を覗き込む。
亮が、本軍師として着任したその日の写真だ。麗花がいつもの調子で、せっかくだから、写真を撮ろうと言い出した。
「もう軍師代理じゃないんだから、お互いちゃんと理解してやってけるわけよね?」
そう言って。
でも、まだまだ、六人の表情は硬い。俊などは、あからさまに不満な顔つきだ。亮も、見事なまでの無表情。
それから、特別に、と招待された天宮家別荘での写真。
ゆいを失った直後の笑みは、はしゃいでいるけれど、どこか淋しい。
夏祭りに行く直前の、二人が欠けた写真。
浴衣を着て出掛けた四人が眼にしたのは、五節舞のアレンジを踊る亮だったのに驚いたのを、よく覚えている。
それから、押しかけて来た貴也のポカでの、亮の誘拐。張一樹は、親友を恋人を失った痛みに耐えられず、壊れていってしまったけれど。
彼の弟である悠樹が意思を継いで、またいつか、アファルイオには二樹と呼ばれる最強の親衛隊が出来るだろう。
優が戻ってきた日の、モノ。こうして改めてみると、優の表情には、すでに覚悟が見えている。
どんな思いで、この写真に写ったのだろう?消えると決めて、それでも思い出に残るのだ、ということを、知っていたはずだ。
全てが終わった後に届いた手紙を、思い出す。
君たちなら、いつか、本当の意味での意味での『遊撃隊』になれると、信じている。
「一年限りの期限を設けられていて、とうに解散はしましたが、『第1遊撃隊』が消えてしまったわけではありません」
確かに、この『Aqua』のどこかに優と共に試験部隊として動いた五人がいる。
「『第1遊撃隊』のコードは、『Forever』というんですよ」
アーマノイドとなった人々の遺体を、遺族へと返してのけた亮の言葉に、誰からとも無く、微笑む。
きっと、優の中でも『第1遊撃隊』は『永遠』だったろう。
だからこそ、本当の意味での『遊撃隊』という単語が出てきたのだろうから。
俊と亮の誕生会、キャロライン・カペスローズからもらったサインと一緒のモノ、三人もの花嫁とエスコートする花婿が三人の大騒ぎの時のモノ。
「小夜子さん、今は幸せそうで良かったよね」
「おかげさんで」
答えた忍に、俊がにやり、と笑う。
「二回のキャンペーンで、どうにかリスティアロイヤルホテルの売り上げも戻ったみたいだしな?」
「ええ、おかげさまで」
疲れた声で返事を返したのは亮で、思わず、皆で笑ってしまう。ウェディングドレスでの写真撮影は、かなり疲れたのに違いない。
迎えを待つ間に撮った写真の惇は、これからのことで精一杯で、緊張しきった顔つきだ。
ぐんと背も伸びて男の子らしくなってきた彼は、いまでは堂々とマスコミの対応もこなすようになっている。
「ちょっとさ、受け答えの仕方が健さんに似てない?」
「アドバイザーが健さんだからねぇ」
海に行くたびに何か起るから、とペンションに行っての肝試しの写真。ところがどっこい、幽霊に出会ってしまったのだが。
ヤキソバパンを握り締めて妙に嬉しそうな忍と、がっくり肩が落ちている俊。
弥生を囲んで楽しそうな顔つきのモノ、『緋闇石』との決着をつけて蓮天神社に初詣に行った時のモノ。
忍の龍牙は、間違いなく、『緋闇石』を貫いた。
幾度とない対峙の先に、勝利したのだ。
でもそれは、ヒトツ乗り越えただけに過ぎない。
人という存在を蔑み、憎み、『Aqua』を思い通りに動かそうとしている男の意思を消し去らない限り。
に、と忍が笑う。
「絶対に、やってやる」
「当然」
軽く六人で視線を見交わしてから、また、写真へと戻る。
モトン王国で俊と須于が作ったマリンバイクを囲んでのモノ、すっかり眼が見えるようになって、無事卒業式を迎えた梓とのモノ。
梓も、一度視覚を失ったことを、そしてその時自分で何を選び取ったのかを忘れることはあるまい。
ルシュテット首都、リデンのヘイレーエン庭園での夜の記念撮影。
お花見に、アグライア船上での絢爛な衣装での一枚に、麗花のニセ看護婦姿に。
健太郎快気祝いという名でご飯をご馳走になった時のモノ。
クオトの奥街で、玲子を囲んで撮ったモノ。
それから、亮が退院してきた時の写真。
さらにめくれることに気付いたのは、忍だ。
「ちゃんと今日のも、もう入ってる」
いくらか、軍師っぽい笑みが浮かぶ。
「データを追加するだけですから」
どうやら、写真撮影の後にさっさとデータを移し変えていたらしい。それを五人に気付かせないところが、亮らしい。
ここには、六人の三年間が詰まっている。
三年間だけではない。
過去からの、ずっとずっと、が。
「これ、鍵かかる?」
「初期パスは『Labyrinth』です」
実に何気ない口調で亮は言う。
多分、そのパスは永遠に変わらない。

すっかり、夜も更けた頃。
いつもよりも遠慮がちに、忍と亮の部屋を繋ぐ内ドアがノックされる。
「はい?」
亮の返事に、ゆっくりとその扉は開く。
もう、すっかりいつもの格好に戻った忍が顔を出す。
「よ、今日はお疲れさん」
ごちそうの数々は、皆が手伝ったとはいえ、かなりの量を亮がこなしている。
「いえ、皆が楽しいのがイチバンですから」
にこり、と笑い返した亮も、シンプルな白いセーターに手袋にパンツ、といういつも通りの格好だ。
窓際に寄りかかったまま、亮は首を傾げる。
「どうか、しましたか?」
珍しく、扉を開けたままで忍がいるからだ。照れ臭そうな笑みを浮かべて、忍は部屋へと入って、扉を閉める。
窓際にいた亮の、目の前に立つ。
「なに、見てたんだ?」
「月が、綺麗なんですよ」
窓を開け放って、空を指す。
冷たい空気が部屋へと流れ込むが、忍も亮の脇に立って、空を見上げる。
「ホントだ、すごいな」
冬の空気は冴え冴えとして、月さえもくっきりとさせるようだ。天高く、白い光が、あたりを照らし出している。
吐く息も、白くなって空気に溶けていく。
「あんまり開けっ放しにしとくと、風邪引くぞ」
「そうですね」
大人しく、亮は窓を閉める。
が、相変わらず、忍の視線は、窓の外の月へと行ったままだ。
「忍」
「ん?」
視線が、亮へと戻る。
「今日いただいた、クリスマスプレゼントのことですが……」
忍が亮に手渡した勾玉は、龍牙に結び付けられていたモノだ。にこり、と笑みを浮かべる。
「今回の任務のケリがつくまでは、亮の手元に置いといてくれよ」
どうやら、忍は今回の任務でどう行動することになるのか、だいたいの予測がついているらしい。
いくらか苦笑を浮かべて、亮は頷く。
「わかりました、任務のケリが着くまで、預からせてもらいます」
忍の視線は、また、一度、月の方へと向く。
が、次の瞬間には、まっすぐに亮の瞳を捕らえる。晴れた日の海の色の瞳を。
「ずっと持っててもらいたいのは、皆とは、ちょっと違うんだ」
ポケットから、小さな小箱を取り出して、差し出す。
「……?」
いくらか戸惑った顔つきで、亮は、そのベルベット張りの小箱を受け取る。
少し躊躇ってから、その蓋を開ける。
銀色に煌く細いラインに、白く輝く石が埋め込まれている。
月に煌いて、きらきらと光を放ちながら、亮を見つめている。
「…………」
小箱を手渡された瞬間から、それの予測はしていたのだろう。が、わかっていても、うまく言葉が出てこないらしい。
指輪を見つめたまま、亮はヒトツ、瞬きをする。
「全部のケリがついたら、俺の側にいてくれないか?」
穏やかな声に、亮の視線が上がる。声と同じように、深い空の色の瞳には柔らかな光が宿っている。
「俺の出来る限りで、幸せにさせてくれないか?」
「でも、僕は……」
困惑しきった声が、亮の口から漏れる。
手術の後、仲文からはっきりと聞いているはずだ。あと一年、持てばいい方なのだと。
その宣言から、もうすでに四ヶ月が経とうとしている。
残っているのは、あと半年あるのか、ないのか。
にこり、と邪気の無い笑みが、忍の顔に浮かぶ。
「出来る限り、生き延びるって言ってくれたろ?亮の出来るだけの間、俺は亮の側にいたいんだ」
亮は、忍を見つめたまま、強い口調で言う。
「失敗するつもりは、ありません。皆を死なせることなど、絶対にしません」
困惑したままの視線が、落ちる。
「……ですが」
「わかってる、それでも、約束したいんだ」
小箱を手にしている亮の手に、そっと自分の手を重ねる。
「約束をするっていうのは、現在、ここに、俺と亮が確かにいるっていう、証だから」
軽く眼を見開いて、亮は忍を見つめる。
「亮の未来を、俺にくれないか」
亮は、もう一度、忍に手渡された指輪へと視線を落とす。
きらきらと、光る石。
確かに、いま、ここでその光を見つめているのは、忍と、それから、自分と。
半年先どころか、年が明けるのを見ることが出来るのかすら、わからないけれど。
忍が言うとおり、現在、ここに、二人でいる。
静かに、ゆっくりと、笑みが浮かぶ。
それから、顔を上げる。
その瞳には、初めて見るモノが、浮かんでいた。晴れた日の海の色がゆるく滲んでいる。
小さく、でも、はっきりと、頷いてみせる。
「約束、します」
「ありがとう」
忍の笑みが、大きくなる。
「もうヒトツ、ワガママ、言ってもいいか?」
「なんですか?」
亮は、軽く首を傾げる。
「今だけでいいから……はめてみてくれる?」
ヒトツ、瞬きをして、それから。少し、笑みを大きくする。
もう一度、小さく頷く。
ケースから、忍は指輪を手に取る。ケースを、窓枠に置いてから、亮の左手を取る。
小さな煌きは、ぴたり、と亮の左薬指にはまる。
「ぴったり」
忍の言葉に、亮も微笑む。
そっと、その石に触れてみる。確かに、そこにある。
「……全部、ケリがついたのなら……ずっとずっと、忍の側にいます」
顔を上げて、忍を見つめる。
「忍が、僕に側にいて欲しいと思ってくれている限り、ずっと」
その言葉の意味は、忍にもはっきりとわかる。
半年だけでなく、一年でもなく、ずっとずっと永遠に。想い続ける限りは。
「亮」
そっと、ゆっくりと口付ける。
それから、強く抱き締める。
背に回る、細い手の感覚が、限りなく愛しくて。
どのくらい、そうしていたのか。
ゆっくりと離れて、そして、顔を覗き込んで、照れ臭そうに、微笑む。
「ありがとう、亮」
亮は、首を横に振る。
「お礼を言わなくてはならないのは、僕の方です」
月を、見上げる。
「誘拐された時も、雪の日も、それから軍師代理としてここへ来た時も……助けてもらったのは、僕の方です」
「忘れてたけど?」
痛みのある笑みが、亮の顔に浮かぶ。
「記憶を消したのは、僕です……でも、僕の記憶からは、消えてませんでしたから」
ゆっくりと、忍を振り返る。
「信じてる、という言葉にどれほど救われたか」
いつだったか、自分で傷をつけた腕を見た時に、仲文が言っていた。
生きているかどうか、わからなくなってしまうみたいでね。確認したくなるんだよ。
それでも、トドメを刺さずにいてくれたのが、自分の言葉のおかげなのならば。
あの日に出会っていた意味も、あるのだろう。
ずっと、一人にしてしまっていたけれど。
たった一人で、異端という言葉に縛られながら、命を削るほどに辛い思いをさせてしまったけれど。
亮が、くすり、と笑う。
「軍師代理として来た時も、あれだけ酷い言葉ばかりを並べたのに」
思わず、忍も苦笑する。
「怒ってたよ、散々。でも、なにか目的があるんだってわかったから……本当は痛みも知ってるってことも」
そっと、忍の肩に亮が寄りかかる。
「生きてきて良かったと、そう思えるのは忍のおかげです」
「俺も、亮がいてくれて、良かったよ」
肩を抱き寄せながら、忍が言う。
「誰かを想うことが出来るとわかったから、そして、とても幸せだとわかったからね」
もう一度、耳元でささやく。
「好きだよ」
くすぐったそうな笑みが、亮の顔に浮かぶ。



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