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夏の夜のLabyrinth
〜20th 蒼惑星〜

■eternal・28■



もう誰も入ることの無い客間から始まった掃除は、ずっと誰も触れていなかった優の部屋、ベランダ、風呂、洗面所の共有スペース、各自の部屋、駐車場、そして、台所。
最後が、居間。
昼を食べ終えてから、最後の掃除を終える。
掃除用の道具も全て片付け終えて、ゆっくりとお茶を飲みながら、麗花が居間を見回す。
なにも動かせないから、景色は何も変わっていない。
でも、どこか、がらん、として見える。
ここの住人がいなくなるのだと、家も気付いているかのように。
いくらか苦笑を浮かべて、忍は窓へと眼をやる。
「……なんか、ココから始まったって気がする」
「そうかもな」
ジョーが頷く。
俊を失って、一ヵ月後に優を失って。
悔しさと焦りをどこにぶつけていいかわからなくなって、窓を殴った。
あれほどに感情を動かした忍を、ジョーは見たことがない。
四人ともが、本当に絶望的な気持ちだった。
三ヶ月で全てを解き明かし、『元通り』に戻してみせろ、と言われて。さもなくば、『解散』。
そして、軍師代理が現れたのだ。
「これでも、随分寛大な処置だと思いますけどね」
という、それじゃなくても逆立ってる神経を、思い切り逆撫でする台詞と共に。
言っても無駄と決めてかかった視線と、自分の指示に従いさえすれば、絶対に三ヶ月でやってのけてみせる、という自信と。
「本軍師にスムーズに引き継ぐ為ったって、あの時はすごかったよねぇ」
「言われる度に、心から腹立ててたわね」
笑い顔での麗花と須于の言葉に、亮も苦笑する。
「そうですね、あの頃は僕も、内心は焦っていたのかもしれません」
「え?」
眼を丸くしたのは、俊だ。
「亮でも、焦るのか?」
「今思えば、ですけどね」
苦笑は、自嘲の笑みへと変わる。
「肝心の軍師着任前に体調を崩してしまいましたし、俊が……」
言いかかって、口をつぐむ。
過去の記憶を残したままの亮にとっては、『緋闇石』の再登場は予測されていた事項とはいえ、相当にプレッシャーの大きい出来事だったに違いない。
かつて、六人の命を犠牲にして、やっと止めることの出来たモノ。
『第3遊撃隊』が動く前にも、数度おぼろな影をみせたことがあるようだが、その時はたまたま微力だった為に、大きな被害になることなく、消えている。が、今回、どの程度の力を蓄えているのかは想像外だ。
数度現れた際の状況把握の再確認、今回の状況との比較、対策……
誰にも頼むことが出来ないそれを、無理にやり続けた為に、本来ならば本軍師として着任するはずだった直前に、倒れたのだ。
亮は体調を崩した、と言ったけれど、すぐに復帰可能とわかっているならば発足時期をずらすことだって出来る。
それが、出来ないほどに、亮は無理を重ねていた。
挙句に、優の采配下での行方不明者発生。
もう誰も犠牲にすまい、と誓っていた亮にとっては、かなりな衝撃だったに違いない。
まして、最初に『緋闇石』に取り込まれたのは、俊だった。
なにが起こるのかは、過去のデータから想像がついている。リマルト公国が変貌した主要因が、『緋闇石』に操られているとはいえ、俊であると確信出来てしまう。
かつて、傷つけた俊を、また、こんなカタチで傷つけてしまっている。
ただ、自分が采配をふるえなかったばかりに。
「……もしかして」
忍が、ぽつり、と問う。
「三ヶ月って期限は?」
「僕が、決めました。どうあっても、なにをしてでも、村神さんと俊を取り戻すつもりでした」
時間がかかればかかるほど、失われていく時は大きくなっていく。
どんなに長くても、四ヶ月。
亮は、そう決めたのだ。
己の能力ならば、それが出来ると確信したのではなく、絶対にやると決めて。
なにをしてでも、というのがどういう意味か、忍はイチバン良く知っている。
『緋碧神』との対峙の時、隙を作るためとはいえ、『緋闇石』の一撃を自分の躰で受けたのをこの眼で見たのだから。
そして、自分が失血していっているのをわかっていて、総司令部に向おうとしたことも。
「どうして、ここまで出来るんだよ?『第3遊撃隊』のために?」
あの時、忍が怒鳴るように尋ねた問いの答えを、今は知っている。
忍たちの望みを、どうあっても叶える為に。
過去に『緋闇石』を止める為に死んでいった五人を、今度こそ幸せにする為に。
その為ならば、自分の命でさえ、道具でいい。
亮にとっては、最初から大事な五人だったから。
『緋闇石』を消す為には、龍牙が必要と、亮は結論付けた。
そして、万全の体制で臨むには、結局六人揃うしかないのだ、と。
そうとしか出来ないのだとしても、絶対に、犠牲にはしない。
無言での、強い意志。
「一人で、全部背負って、全部飲み込むつもりだったでしょう?」
須于の言葉に、亮は困ったような表情で、ただ肩をすくめる。その通りだったのだから、返事のしようがないのだろう。
いつからだろう、それが変わって行ったのは。
多分、少しずつ、なにかが変わっていった。
どう説明していいかもわからないくらいに、少しずつ。
ゆいが海へと消えていってしまった時に。
貴也のポカで、亮が氷の人形にされてしまった時に。
優が旧文明産物の生命機器を有した、アーマノイドだったのだとわかった時に。
ほんの、少しずつ。
「そういや、別に招かれたとかじゃなくって六人で初めて出掛けたのって、アーマノイド慰霊祭だったよな」
俊の言葉に、麗花が頷く。
「うん、見たかったから……多分、誰かがちゃんと思ってるって、確認したかったんだよね」
自分たちがトドメを刺した、人であるはずのアーマノイドたちを。
でも、その後、六人で出掛けようと言い出したのに、誰も反対しなかったのは。
きっと、側にいることに違和感がないだけではなくて。
そして、それは、いつからか。
六人なら大丈夫。
そんな言葉に、変わっていた。
でも、それも。
あと、数日で終わりだ。
『Aqua』の命運も、過去からのしがらみも全て、大晦日に決着は決まる。
その先に未来があるのだとしたら、それぞれの人生が待っている。
もう、ここに帰ってくることは無い。
「でも、それでも、行くよね」
「当然だ、留まることに、意味も無ければ価値も無い」
「決着は、どうであれつけなくてはならないしな」
「それに、どんなに離れていたってさ」
「私たちが六人一緒だったってことが、消えるわけじゃないわ」
「そう、忘れない、絶対に」
六人で、泣いて、怒って、そして、笑って。
そんな毎日を、忘れない。
絶対、に。
「迷宮を抜けた先には、永遠があるのかもしれませんね」
永遠を、見つけるためにも。
「行こう」
忍が、にこり、と微笑んで立ち上がる。
「うん、そうだね」
「そろそろ、ホントに行かなきゃね」
「ああ」
「そうだな」
「行きましょう」
麗花が、須于が、俊が、ジョーが、忍が、そして、亮が。
家を後にする。
ゆっくりと扉が閉じて。
そして、灯りが消える。
『第3遊撃隊』の拠点という役目を、終えて。



「健さん、遅刻ですよー!」
明るい声を上げたのは、麗花だ。しっかりと箸と小鉢は握り締めたまま。
脱いだコートを、慣れた調子で受け取ってハンガーにかけているのは亮だ。ついでにスーツの上着も受け取り、仲文が出してきてあったセーターを手渡される。
この方が、気楽にご飯を食べられるからだ。
「ちょっと仕事が押してね」
笑みを浮かべつつ、ぐるり、とこたつを見回す。
強引に二つのこたつを合体させてある。が、その周囲はぎゅうぎゅうだ。
家主である仲文、遊びに来た広人、一緒に呼び出されたらしい仁未、そして、忍、亮、俊、ジョー、須于、麗花の『第3遊撃隊』の面々。
家の勝手を知っている亮と仁未はエプロンをかけていて、材料を随時追加するなどのマメな作業をしているらしいが、にしても、だ。
九人がぎゅうぎゅう詰めは、なかなかに壮観だ。
「さーて、誰の隣がいいですかねぇ?」
と、麗花が首を傾げる。
間に入るには、どうあっても隙間をあけるしかない。
「えーっと、女の子に挟まれる両手に花コース、ヤロウに囲まれてがんばるサバイバルコース、子供二人に挟まれるほのぼのコース、ってとこかな?」
広人がニヤリと笑いながら、言ってのける。
「あ、ヤロウコース却下」
健太郎の即答に、九人して大爆笑になる。
笑っているのは、亮も、だ。
ふ、とそれを見て微笑んだ健太郎を、目聡く見つけたのは忍だ。
「ほのぼのコースでどうぞ、ほら」
押し込まれて、戸惑い気味な顔つきになりつつ、素直に健太郎はコタツに入る。顔をしかめたのは俊だ。
「うっわ、親父!ちゃんとコートの前閉めてきたのかよ?!えっらい冷えてやがる」
言葉と共に、さらにコタツに押し込まれる。
「あ、取りますよ、コタツで暖まっててください」
反対側からは、亮から小鉢を取り上げられてしまう。
「ちょうど、はんぺん食べ頃だから入れますね、あと白菜と豆腐とでいいですか?」
「おおっと、健さんの小鉢にはんぺんが投入、好物なんでしょーかー?!」
すかさずツッコむのは広人だ。
「好きですよね」
にっこり、と亮。健太郎の頬が、珍しく染まる。
「あ……ああ」
「おお、意外な一面発見ですねぇ、いかがですか?!」
仲文が、笑って麗花へと架空マイクを向ける。
「こんな一面があったなんて、ステキ!かわいい〜」
手を組んでのラブラブポーズに、またも爆笑が起る。
仲文は、すかさず須于にも架空マイクだ。
「いかがです?」
「身近な感じがして、ステキですね」
にっこり、と微笑んで見せたのに、今度は拍手。
「いかがですか、ご感想は?」
「それより、俺にも一杯欲しいです、はい」
と、仁未が渡してくれた空いたグラスを指してみせる。
「これはこれは、気付きませんで」
忍が、身を乗り出してグラスを満たす。
「おおーっと、未来の婿は抜かりありませんねぇ」
すかさず言ったのは麗花。え、という顔つきになったのは、当の忍と亮だ。
その動きで、なんとなく、十人全体の動きが止まる。
口にした麗花自身が、最も不思議そうな顔つきだ。もちろん、一度死を覚悟して姿を消した亮を説得して連れてきた忍が、なんらかの意思表示をしたのだと確信しての発言だったのだが。
なにやら、二人の反応は、それにしては過敏だ。
に、と、口裂けたんじゃないかと思うほどの笑みを浮かべたのは、広人と麗花だ。
へ、と驚いた顔つきのままなのは、ジョーと俊。
にっこり、と須于と仁未も微笑む。
「あら、そうなのね」
という言葉の裏に、ちゃんと言わなきゃなにがあっても知らないわよ、という単語が付いて来そうな二人だ。
二人が言葉に詰まっている間に、健太郎は注がれたグラスを、ぐぐっと開ける。
「もう一杯、くれるかな?」
「ザルのくせに」
と言いつつ、仲文は大人しく注いでくれる。
それもまた、一気にぐぐっと飲み干して。
「俺が、頼んだんだよ」
と、にっこりと笑う。
「幸せにしてやってくれって、俺が頼んだの、忍くん、そういうところは律儀で優しいからね」
微苦笑が、忍の口元に浮かぶ。
「頼んだのは、俺の方ですよ、健さん」
亮は、二人のやり取りを、いくらか困ったような顔つきで見つめていたが、やがて、そっとセーターの襟元から、一本のチェーンを取り出す。
その先には、きらきらと煌く、ヒトツの指輪。
「え?!あ!そうだったの?!」
からかったが、そこまでとは思っていなかったらしい。
眼を大きく見開いた後、麗花が満面の笑みになって、テーブルを飛び越えるように亮に飛びつく。
「おめでとうッ!」
「キレイ!見せて見せて」
須于と仁未も、身を乗り出す。亮は、相変わらず困惑したままの顔つきだが、素直にチェーンを外して、須于たちに手渡す。
それから、本当に困った顔つきで、俊を見る。
戸惑った顔つきだった俊は、亮の顔を見て、笑顔になる。
「良かったじゃん、ずっとずっと、想ってたんだろ?」
それは、過去のことも含めて、全部。
間に挟まれて、少々身をのけぞらせていた健太郎も、亮へと笑みを向ける。
「幸せか?」
皆が見ていることを、亮だって知っている。
かなり、困った顔つきになった後、反対隣にいる、忍へと振り返る。
忍はただ、にこり、と微笑む。
視線を戻した亮は、ゆっくりと微笑む。
「はい」
「はーい、ではでは、皆様、お手元のグラスを持って!」
号令をかけたのは、広人。
次は、仲文だ。
「忍くんと、亮の未来を祝って!」
「はいはーい!ジョーと須于の未来も!!」
「それ言うなら、仲さんと仁未さんのも!」
「皆の、未来を」
亮が、静かに口を挟む。
ずっと、それを祈っていたのを、忍たち『第3遊撃隊』のメンツがイチバン知っている。にこり、と笑う。
「当然だろ」
「絶対に、そうなるんだよ!」
「ほらほら、行くよッ」
「かんぱーい!」
今回のことを乗り越えたとして、二人の先がほとんどないことなど、皆わかっている。
だからこそ、少しでもたくさん。
一緒で、幸せでありますように。
祈りを込めて。
ほんの、少しでもいいから。
忍と亮は、どちらからともなく、顔を見合わせる。
それから、ゆっくりと微笑む。

十人もがいきなり寝泊りするほどの道具は、さすがの仲文の家にも揃っては無く、男性陣と女性陣に分かれての雑魚寝状態で朝を迎える。
誰かが起き上がる気配に、敏感に気付いたのは仁未だ。
「朝ご飯?十人分はキツイでしょ、手伝うわよ?」
その言葉に、起き上がった方である、亮は笑みを浮かべる。
忍と未来を約束したなら、こっち、と強引に連れて来られていたのだ。
「大丈夫です、僕にやらせて下さい」
笑みが大きくなる。
どこか優しくて、そして、どこか淋しい。
何も言えないまま、仁未は頷く。
亮の姿が消えてから、ふ、ともう一人、起きているのに気付く。須于だ。
「須于ちゃん……」
にこり、と須于も、どこか淋しげな笑みを浮かべる。
「朝食の準備は、亮の仕事なんです、お願いします」
軽く身を起こして、ぺこり、と頭を下げる。
仁未は、軽く首を横に振る。
「少しでも負担が少ない方がいいかなって思っちゃったの。ホントいうと、楽しみなのよ?三年間、ずっと『第3遊撃隊』の朝食を作ってきたんでしょ?」
なにも言えないまま、ただ、須于は仁未を見つめる。
仁未も、須于の痛みに気付いたのだろう。
きゅ、と手を握り締める。
仲文の家でも、忍は変わらず素振りをしてのけ、ジョーは早めに新聞を読むために起き出してきて。
須于は、皆の分の洗濯物を、気持ち良さそうに干している。
そんな光景を見ながら、健太郎は亮の作った朝食に箸をつける。
「にぎやかな朝だな」
天宮の屋敷では、朝食は一人だ。そんな感想も当然だろうが。
「そうですか?今日は大人しいくらいですが」
亮の言葉に、ジョーが苦笑を浮かべる。
「家主が起きてこないことにはな」
「それは失礼」
仲文が、ぬぼーとした顔つきのまま、ほてほてと歩いて、健太郎の隣に腰を下ろす。
くすり、と笑いながら、亮はコーヒーの入ったカップを出す。
「ジョーの特製ブレンドですよ」
「そう」
不思議そうな窓の外の忍と、新聞を手にしたジョーの視線とあった亮は、口の動きだけで、低血圧なんですよ、と伝える。
亮の淹れたコーヒーを口にしてから、しばし経ってから。
「コレ、すっごく美味いなぁ」
感想が述べられる。
その間に、健太郎は朝食を片付け終えている。
「じゃあ、俺、行くよ」
「行ってらっしゃい」
亮だけでなく、忍とジョーも、それぞれに笑みを浮かべる。
「ああ、気をつけて」
やっと我に返ったような口ぶりで、仲文が言うのに、思わず笑いながら健太郎は居間の扉を開ける。
入れ替わりになった俊と広人、空になった洗濯カゴを抱えた須于も、笑みを浮かべる。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
どうにかはいずり出してきたらしい麗花が、最後に寝ぼけ眼で手を振る。
「健さん、行ってらっしゃーい」
「行ってくるよ」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、幸せそうな笑みが浮かぶ。
「お父さんが出掛けてくのって、こんな感じ〜」
にこり、と健太郎も笑みを大きくする。
「そうだな、家族に見送ってもらうってのは、こんな感じなんだな」
エプロンで手を拭きながら、慌てたように玄関まで見送ってきた亮が、ふ、と微笑む。
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「ああ、行ってくるよ」
玄関を開けて、もう一度、振り返る。
「亮、自分たちが生き延びることを、最優先にしろ、いいな?」
こくり、とごく自然に、亮は頷く。
「はい、ですから、無理はしないで下さいね」
「わかった」
一瞬、微苦笑を浮かべて、健太郎も頷く。
それから、まっすぐに亮を見つめて、もう一度、笑みを浮かべる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そして、健太郎の後姿は、朝日の中へと溶けていく。
台所に戻ると、さっそくに俊と広人が朝食の催促をする。
「腹減ったー!」
「朝ご飯、朝ご飯!」
くすり、と苦笑気味に笑ったのは須于だ。
「手伝うわよ?」
「いえ、大丈夫です」
朝と同じように、亮は微笑む。
言葉どおりに、手際よく、三人の朝食が出てくる。それから、皆とはタイミングをずらした仁未と素振りの汗を流してきた忍、朝イチバン遅い麗花。
食べ始めたあたりで、ジョーブレンドのコーヒーでやっと目覚めた仲文と、朝から冗談飛ばしまくりの広人が、一緒に家を出る。
「じゃ、行ってくるよ」
「じゃな」
手を振る二人に、やはり、玄関まで見送りに出た亮は、笑顔を向ける。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
にこり、と二人ともの顔に、笑みが浮かぶ。
「おう、お前らもな」
「他人の運命なんざ、くそくらえくらいの勢いでな」
「はい」
返事を返す亮は、どことなく楽しそうな笑みだ。
「ありがとうございます」
手を振る亮の姿が、見えなくなってから。
仲文と広人は、どちらからともなく、顔を見合わせる。
いくらか、困ったような笑みを浮かべたのは、仲文だ。自分の感情を、いくらか持て余したような。
ぽふ、と広人が、頭をはたく。
「行こうぜ」
「ああ」
二人の姿も、やがて朝日の中へと溶けていく。
「ありがとう、朝食、とっても美味しかったわ」
笑顔で手を振る仁未も見送って、仲文の家の戸締りを済ませて。
『第3遊撃隊』の向う先は、総司令部地下だ。



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