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夏の夜のLabyrinth
〜20th 蒼惑星〜

■eternal・29■



総司令部地下。
かつて、過去の六人の、拠点だった場所。
亮は、全く、迷いも躊躇いもせずに壁の向こうを開け始める。複雑なパス照合、角膜照合、指紋照合。
次々とクリアしていくそれは、過去には見慣れたモノだったろう。
照合最終完了の文字表示と同時に、扉は音も無く開き始め、灯りが次々と点っていく。
全てが付き終わる前に、亮は慣れた様子で総司令室の二倍規模はあるだろう指示機器を作動させる。
モニター点灯とほぼ同時に、すさまじい量のシュミレートとデータ処理が始まる。
ボードの上を軽やかに動く指は、ずっと見慣れてきたモノだ。
その口から発せられる言葉が、とてつもなくキツかった時から、その動きの素早さと滑らかさと、その結果はじき出されてくる指示の正確さは変わらない。
そして、無機音質の中の有機質の声を聞き分けることが出来ることも知っている。
二倍量のデータを、こともなげに消化していく亮の後姿を見つめながら、忍がいつも通りの表情で首を傾げる。
「で、なにで『地球』へ降りるんだ?」
「『地球』から『Aqua』へ移住する際に使用したシャトルが一台、残されています」
ジョーと忍の口笛が、二重奏になる。
「それはまた、オールドファッションねぇ」
「現在の『Aqua』では最高のだけどな」
麗花の感想に、俊がにやり、と笑いながらツッコむ。
須于が、いくらか緊迫感のある顔つきで首を傾げる。
「もちろん、あの男が用意したモノ、なのよね?」
「そうです、ですが、実際の点検をかけてみても、機体自体にはなんの細工もされていません」
もう、何度もデータの確認自体はしていたのだろう、亮はその言葉と共に振り返る。
「でも、さ」
麗花が、不可思議そうな顔つきで尋ねる。
「そのシャトルって、宇宙へ出て返ってくるためのモノでしょ?『Aqua』内部の『地球』に行くのにさ、そんな高性能って必要なわけ?」
「成層圏との境があるわけではないですから、大概のモノで降りられるでしょうね」
にこり、と亮は微笑む。
「戻る時、か」
忍が、ひょいひょい、と指を上下に往復させる。
「ええ、『地球』側にはこちらから遠隔操作出来る発射台もありませんし、あったとしてもシャトルを固定する術もありません」
「ってことは、普通に着陸したシャトルで、飛行機と同じように発射するってことか?」
俊が、いくらか驚いた顔つきになる。
須于も、軽く眉を寄せる。
「それは難しいんじゃないかしら、下部から相当な馬力で持ち上げるしかないと思うけど?」
「当たりです、使用するシャトルには、その機能がついています」
カリエ777をくるり、と一回転させつつ、ジョーが口の端に皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「理論的にいくならば、そのシャトルを使えば『地球』を『Aqua』から切り離し、メデタク『Aqua』に帰還出来ることになっているわけだな」
「現在入手しているデータを、鵜呑みにするならば、ですね」
亮も、軍師な笑みに皮肉なモノを加える。
人という存在を蔑み、思い通りの支配形態を布こうとした男。その為に、『Aqua』に移住する人間たちに、精神制御をも加えてみせた。
己が死んで後でさえ、『緋闇石』の発動を仕掛け、『Aqua』の自壊を仕掛けてきているのだ。
そんな男が、そうやすやすと自分の望みを打ち砕く者たちを許すとは思えない。
「ワナが待っているのは、『地球』、か」
「でしょうね」
ふ、と緊迫感が亮の顔をよぎる。
「でも、行くよね」
麗花が、にやり、と笑う。
「そりゃ、俺たちしか出来ないんだし?」
「眼には眼を、旧文明産物には旧文明産物をってな」
忍が、俊が、笑顔になる。
「当然だ」
ジョーも、きっぱりと言い切る。
須于が、まっすぐに亮を見る。
「指示を、ちょうだい」
こくり、と頷くと、ぽう、と中央に蒼い惑星がが浮かび上がる。
幻影片が映し出す映像よりも、よりはっきりしたモノだ。
「『地球』?」
「いえ、『Aqua』です」
いま、この星にいる誰もが、まだ眼にしたことの無い光景。それは『地球』そのものの蒼と白と碧が広がる美しい星だ。
「ホント、『地球』のレプリカなんだね」
「大陸配置は違うけどな」
興味深そうに俊がいろいろと覗きこみながら言う。
「ここが、リスティアか」
忍が、正確に指してみせる。
「そう、そして、ここがアルシナドです」
亮が指差すと同時に、すう、と蒼い星の画像は薄れ、見慣れたリスティアの地図が映し出される。その一点が明滅していて、そこがアルシナドなのだと忍たちにもわかる。
そこから、一本の光線が降りる。
「これが、シャトルの降下コースになります」
『地球』の一部であろう画像が、光線の下に現れる。そして、六箇所の明滅点が現れる。
「『Aaua』と『地球』の主幹接続点です、これを破壊すれば、切り離しは完了です」
「降下点から、距離がありそうだが?」
正確に縮尺と距離感を掴んでいるジョーの発言だ。
「ええ、降下点からは、バイクでの移動になります」
「バイク?」
最も怪訝そうになったのは、俊だ。
軍用のカスタマイズをしつくしたバイクも、『第3遊撃隊』の家に置いてきている。
が、すぐに、ぴん、と来た顔つきになる。
「あ、もしかして?」
亮は、軍師な笑みを浮かべて頷く。
「旧文明時代に使っていたモノが、残っています。それを、シャトルに積み込みます」
「扱いは記憶があるからいいけど……状態は、機械で確認済み、ということ?」
いくらか不安そうに、須于が尋ねる。
亮の笑みが、大きくなる。
「そう言うと思って、早めに、ここに入ったんですよ」
にやり、と忍が笑みを浮かべる。
「そりゃもちろん、俊と須于の整備を待ってから出発だな?」
「ええ、一段下には、バイク走行可能なコースもありますし」
ジョーが頷く。
「いくら記憶が戻ってるとはいえ、躰が扱いを覚えてないことにはな」
「そうだね」
頷きあう五人を見回して、亮は続ける。
「整備と訓練の前に、指示を済ませてしまいましょう、それぞれ最初にあたるのは、この主幹接続点になります」
いつもの作戦通り、指示が図上に明確に浮かび上がる。
「最後の一箇所は?」
「主幹中の主幹で、旧文明金属でしっかりと守られているシロモノです」
忍の口元に、笑みが浮かぶ。
「俺の仕事だな」
「ええ」
亮は頷いてみせ、須于たちへと視線を向ける。
「忍が戻るまでには、四台のバイクは収容して出発準備を整えて置いてください、戻り次第、すぐに発射させます」
食い尽くされ、断末魔の悲鳴を上げ続けている『地球』に長居は無用だ。
それは、五人もわかっている。
「出発は?」
「日付変更線丁度に」
忍たちが、頷く。
にこり、と亮も、笑みを浮かべる。
「code Labyrinth go!」
「Yeah!」

バイクなだけあって、真っ先にモノにしたのは俊だ。
「こんな技術あったのかよ」
などと感嘆の声を上げながら、すぐに乗りこなしてしまう。もちろん、忍とジョーも『第3遊撃隊』としての移動手段がずっとバイクであっただけはあって、そう手間をかけずに乗りこなす。
妙にガタイが大きいのに、少々須于と麗花は苦労したようだが、俊がいくつかポイントを口にした後は、難なく乗ることが出来るようになる。
一台ずつ、俊と須于がエンジン周り中心に確認と整備直しを入れて、準備は以上完了、だ。
いよいよシャトル機上の人となる、という時になって、忍たちの眼が見開かれる。
総司令室の、軍師用椅子の周囲に降りてきている無数の糸のような線を眼にしたからだ。
「なんだ、コレ?」
「指示機器と軍師を繋ぐモノ、です」
亮は、あっさりと答える。
「『地球』とはかなり距離が離れているので、いつもの機械入力指示では通信が間に合いませんから、神経反射を使うんですよ」
神経、と聞いて、ぴくり、と俊が反応する。
「亮」
「命がけなのは、忍たちだけというのは不公平でしょう?」
にこり、と亮は微笑む。
「誰かが、ここで指示をしなくてはなりません。ですが、ここで安穏と見ているつもりは、ありません」
まっすぐに忍たちを見つめる。
「絶対に、帰還させてみせます」
笑顔で頷いたのは、忍だ。
「ああ、頼んだ」
ぽん、と肩を叩くと、背を向ける。
「行こう、無駄口叩いてるヒマは、ない」
「忍?!」
俊は、まだ、納得してない顔つきだ。
いくらか不安な顔つきで、須于が亮と俊を、見比べている。ジョーは、忍が決めたなら、とあっさりと背を向ける。
麗花は、一瞬、じっと亮を見つめるが、亮が微笑むと、笑み返して大人しく背を向ける。
「約束したから」
にこり、と忍は、俊に笑みを向ける。
「出来る限り生きるって、約束したから、大丈夫だ」
強い、瞳。
瞬間的に、俊の視線が、下に落ちる。忍へと戻ってきた時には、『第3遊撃隊』の俊のモノだ。
「よっしゃ、行こう」
ジョーに、ぽん、と頭をはたかれて、須于も、こくり、と頷く。
五人の姿がシャトル機体の方へと消えていくのを見届けてから、亮は中央の椅子に座る。
モニターに向き直り、いつも通りにボードを叩き出す。
つい、と大量に降りてきた糸状のモノが、まるで生き物ののように動き出す。
静かに、亮は瞼を閉ざす。
手に、足に、頭に。
神経と繋がっていく、異物の感覚。
数度、軽く、眉を寄せる。
やや、しばらくして。
ゆるやかに、眼を開く。
にこり、と笑ってみせる。
大丈夫、飲み込まれてはいない。
忍の声が、はっきりと脳内に届く。
『準備完了だ』
「発射カウントダウン開始、始めます」
指を動かさなくても、スイッチが入ったのがわかる。
一分間のカウントダウンが始まる。
「3、2、1……」
大轟音と共に、シャトルは一気に降下を始める。

すさまじい加速と共にかかる重力に、さすがに忍たちも顔をしかめる。
窓の外の景色も、あまりに早く流れすぎて、なにも見えない。
会話しようにも、どうにも身動きが取れぬままだったが、そんな苦痛もそう長くはかからずに終わる。
あっという間に、『地球』に到達したからだ。
遠隔操作とは思えぬスムーズさで、シャトルは地表へと降り立つ。
計器類はどれも正常値で、完全に予定通りに到着したことを告げている。
思わず、誰からとも無く、息をつく。
が、ここで安心している暇など、どこにもない。
すぐに、忍が立ち上がり、ジョー、俊、須于、麗花が続く。
「ハッチロック解除したわ」
須于の声に、真っ先にバイクにまたがった俊が頷く。
「おっけ、開けろ、俺が走れるか見るから」
「行くわよ」
「おう」
すう、とほとんど音も無く、ハッチが開いていく。同時に、バイクで走り出せるように地表への通路も。
「こりゃ、走りがいありそうだ」
皮肉に笑うと、俊はバイクを一気に発車させる。
砂と、岩だらけの大地。
どこまでも、広がるのはそれだけだ。
緑も、青も、ない。
その全ては、他ならぬ人が食い尽くしたから。
が、それ以外は、酷い地殻変動も、付近になんらかの異変もなさそうだ。砂よりは岩も多いし、そう困惑はないだろう。
通信機を通じて、報告する。
「行けるぜ」
『岩路を選べば、スピードも問題ないはずです』
亮からも、フォローが入る。
「じゃ、行くか」
「ああ」
「準備万端ってとこだよん」
「ええ」
五台のバイクが、灰色の地表へと散っていく。

眼に入る景色は、どこまで行っても砂と岩。亮の指示座標がしっかりと把握できていなければ、とてもじゃないが目的地まで辿り着くことすら出来ない単調な光景だ。
もっとも、そう気の遠くなるほどの長距離を走らねばならないわけでもないが。
最初に目的に着いたのは、俊だ。
バイクが得意なだけはある、と言える。
目前にしっかりと、碇のように『Aqua』から降ろされている長い柱を見上げる。
「なるほどな、コレがパイプってわけか」
軽く、こつん、と叩く。
この程度では、まったく衝撃が伝わるはずも無いことは、知っている。
最後に忍が切り捨てることになっている主幹中の主幹接続点ではなくても、旧文明産物であることには変わりない。
ポケットに突っ込んできた得物を、ぴん、と棒状にして、構える。
二度、は、無い。
下手なことをすれば、自分が与えた衝撃が、まま、『Aqua』に伝わることになる。
それは、そのまま、『Aqua』の大崩壊を意味することになる。
す、とヒトツ、息を吸う。
亮の指示は、いつだって完璧だ。
「一番乗り、行くぜ!」
言葉と同時に、一気に得物を突っ込む。
なんらかの通信をしていたという証拠が、ふ、と消える。
ぐらり、とも揺れもせず。
すぐにバイクに乗って、その場を離れる。柱も遠くになる頃に、背後から、轟音が響く。自分がトドメをさした柱が、崩れ去ったのだ。
『Aqua』と『地球』のしがらみが、一本、切れる。

にやり、と口の端に笑みを浮かべたのは忍だ。
「リーダー差し置いて、やってくれるじゃないか」
軽口を叩いてはいるが、目前の柱を見つめる視線は、冷え切っていて鋭い。
す、と腰から、龍牙が抜き払われる。
灰色の世界の中でも、その白銀の刃は鋭い光を放ってみせる。
亮の指示部がどこなのか、単調な柱でも、はっきりとわかる。
迷いようもない。
す、と龍牙は柱を横切る。
一見、なにも変わらない。が、通信している証拠である明滅は、消えている。
精神制御可能な龍牙で、中の通信網だけを断ったのだ。
「二本目、上がり」
忍の言葉と、姿が消えてしばらくしてから。
その柱も、轟音と共に崩れ去る。

「三番手、行きまーす!」
明るい声を上げて、先ず宣言をしたのは麗花。
声とは裏腹に、その紫の瞳は真剣に柱を見つめている。手にしているナイフは、八本。
麗花の投げられる、最大数だ。
その一本でもが外れれば、忍と俊がしてのけたことは無駄になる。
いや、いままで、健太郎が総司令官として責められて耐えてきたことも、全部。
亮から指示されている座標は、柱に刻み込まれているかのように、はっきりと麗花の眼にうつっている。
亮の指示が完璧だということは、知っている。
それから、その指示を完璧にこなす、と亮が信じてくれていることも。
一気に、八本のナイフが放たれる。
直線、曲線、様々な線を描いて、柱へと一本ずつ打ち込まれていく。
そして、最後の一本が、深く刺さった時。
明滅は、消える。
にこり、と麗花の口元にも、笑みが浮かぶ。

いつも通りに、慎重に自分の仕掛けたモノを確認し終えた須于は、もう一度、柱を見上げる。
真剣な顔つきで見つめたまま、つ、と下がる。
完全にバイクにまたがり、発車準備を終えたところで、スイッチを入れる。
と、同時に、自分のバイクも発車させる。
空気を裂くような、自分の放った火薬電流が走る音がして。
大音響で、柱が崩れ去る。
爆風で、いくらか須于の乗ったバイクが加速される。
にこり、と微笑んで、通信機に告げる。
「四本目、上がりよ」

柱から、かなりの距離を取って止まっているのは、ジョーのバイクだ。
担当の柱が、シャトルから最も離れているのは、ケリがつくのが最も早いからでもある。
カリエ777を引き抜いて構えて、つ、と眼を細める。
銃撃音が、高く、数回続いて。
しん、と静まり返った砂地へと、ばさり、と柱の壁の一面が、剥がれ落ちていく。
ジョーはもう一度、カリエを構える。
高い銃撃音が、ヒトツ。
見届けもせずに背を向けたジョーも、ぼそり、と告げる。
「終わった」
一瞬の静寂の後。
轟音と共に、柱はあとかたもなく消えていく。

ジョーの姿に、麗花たちが笑顔を見せる。
「お疲れ、あと、一本だね」
「ああ、そうだな」
バイクだけをシャトルに上げたまま、ジョーが機内に入ろうとしないのを見て、須于が首を傾げる。
「ジョー?」
ジョーは、忍が向っているはずの、最後の一本のある方へと視線をやる。
「静か過ぎる」
ぼそり、と呟いた言葉に、俊が、はっとした顔つきになる。
そして、身軽にジョーの脇へと降り立つ。
「そういや、全く、なんの動きも無いな?」
降り口に腰掛けて、足をぶらぶらとさせながら、麗花が皮肉な笑みをみせる。
「そりゃ、ショーの演出としては最高のを用意してくれてるってことじゃないかしらね?」
静かな通信機へと、須于が呼びかける。
「忍?」

忍が目前にしているのは、順に崩していった五本より、一回り以上大きい柱だ。
「大丈夫だ、今のところ、こちらも何も起きてないから」
須于の呼びかけに応えてから、もう一度、柱を見上げる。
ジョーの言う通り、静か過ぎる。
恐らくは、麗花の言う通りに。
そう、思いつつも、忍は、静かに朱鞘から白銀の剣を抜き払う。
ゆらり、とヒトツ結び付けられた、勾玉が揺れる。
瞼を閉ざし、もうヒトツを手にしている人の名を、口にする。
「亮」
静かな声が返る。
『はい』
「行くぞ!」
言ったなり、忍は大きく踏み込んで行く。
その素早さは、いままでにはないモノだ。
一気に、柱を切り下ろす。
そして、素早く後ずさると、エンジンをかけっぱなしのバイクへとまたがり、走り出す。
五秒。
十秒。
すさまじい轟音と共に、最後のしがらみが崩れ去っていく。
『Aqua』が『地球』から搾取し続けた証拠である、全てが消え去っていく。

柱が消え去っていくのは、光の明滅が消滅することで、シャトルで待機している俊たちも知ることが出来る。
「どう、だ?」
機外で忍を待つ俊が、顔を上げて尋ねる。
入り口に腰掛けていた麗花が、奥のモニターを見つめている須于へと、視線をやる。
ゆっくりと振り返って、須于が告げる。
「いま、消えたわ」
その気配に真っ先に気付いたのは、ジョーだ。
はっと眼を見開いて、シャトルへと振り返る。
「ええ?!」
戸惑った声を上げたのは麗花。
がくん、と、大きな揺れを感じたからだ。
地面から、触手のように一本の金属製の腕が伸びたかと思うと、がっちりとシャトルを掴んでしまう。
それは、あっという間のことで。
「うわ、こう来たか?!」
思わず、俊が声を上げてしまう。
素早く、通信を入れたのは須于だ。
「亮!シャトルが掴まったわ!」
が、返事が返らない。
「亮?!」
もう一度、呼びかける。
が、やはり、亮からの応答はない。
先ほど、忍が最後の主幹接続点を切り捨てる前には、はっきりと返事を返したのに。
こちらにもワナが発動したが、亮の方もなにかが起ったとしか思えない。
須于のただならぬ様子に、麗花が、俊とジョーを見下ろす視線も、緊迫感に満ちたものになる。
「亮?!亮、返事しろ!」
俊が呼びかけているところへ、忍のバイクが戻る。
不安そうな視線と眼があった忍は、無言のまま、一本、指を立てて見せる。
静かに、の合図だ。
ジョーも俊も麗花も、バイクの音に気付いてシャトルの入り口まで来た須于も、いくらか怪訝そうに首を傾げる。
通信機をはずして、忍は低い声で告げる。
「あの男だ」



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