02 □ 視線は合わない side Foe
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参謀部の人間が示した作戦に、前線を預かる将校は、あっさりと拒絶を示す。
難色を示すならともかく、と参謀部は目を見開く。
「あの二人の実力を持ってすれば、余裕だろう?」
「あの二人だからだ」
名を言わずとも通じるほどの実力がある二人だ。率いる部下達も心酔しているという。
それでいて、なぜ拒絶理由が彼らなのかわからず、参謀部は目を瞬かせる。
守勢に甘んじたままの現況を打破するには、参謀部が示したくらいの思いきった作戦が必要なのは、将校も理解はしている。
半ば無意識にため息を交えながら、重い口を開く。
「もし作戦を遂行すれば、殺り合うのは他ならぬ二人の部隊だ」
「こんな時にタチの悪い冗談は」
「冗談でも誇張でもない、事実だ」
きっぱりと将校は言い切る。
「あの二人は愛国心も実力も十二分だ。が、それは互いを意識してない時に限る」
さすがにそれだけでは納得してもらえないとは認識しているのだろう、珍しく更に続ける。
「蛇蝎の如く忌み嫌うという言葉があるが、まさに彼らの為にある。顔を合わせようものなら、先ずは互いを消そうとするのは間違いない」
「なんだって、そんな……?」
半ば以上、信じられないという顔つきの参謀部へと、将校は肩をすくめる。
「知らん。俺が彼らを知った時にはそうだった。間を取り持とうなどと余計な差し出口をしようものなら、こちらの命が危うい」
「しかし、それならとっくに互いを狙っててもおかしくないだろう?」
「ギリギリのところで、踏みとどまっているに過ぎない」
少なくとも将校がここまで言うのを、ごり押ししたところで本気で作戦に向かえないだろう。
「ははあ、ひとまずは持ち帰るしかなさそうだな」
言いながらも、納得のいかない顔つきのままの参謀部へと、将校は頷いてみせてから立ち上がる。
「そうしてくれ。あのラインを突破されないだけ、幸運だ」
将校の背を見送って、参謀部の人間は、ヒトツため息をつく。
守るだけでコトが済むのならば、こんな作戦を提示する必要は無いのだから。



作戦の変更はありえない、と告げられた将校は、ほんの小さく肩をすくめる。
「国がせん滅されるか否かという緊急時に、同士撃ちなどあるわけないだろう」
いくらか強い参謀部の人間の口調は、本営の総意だ。
「確かに平穏時なら、互いを殺しにかかるのかもしれないが」
不穏な言葉だが、それは将校の言葉に一定の理解をしている、と示しているに過ぎない。
だが、将校はそれには応えずに立ち上がる。
「作戦は承知した」
「必要なら、同行して双方に確認するくらいのことは」
参謀部は慌てて付け加えるが、将校は肩をすくめてみせる。
「必要無い」
静かな笑みを残して、将校の背は消える。



フォローは必要無いと将校が言い切った理由が、生きて帰ることが無いと知っていたからだ、と参謀部の人間が理解したのは、ほどなくだ。
作戦開始直後に同士撃ちが始まり、前線を守り続けていた将兵は全滅した。
その間、敵側は一切、手出しをしてはこなかった。
目前の惨劇に、味方以上に呆然としていたのだ。が、本当の同士討ちと理解したなり、あっさりとラインを越えて侵攻してきた。
後退に継ぐ後退の先に待っているものは、ヒトツだ。
せめて将校の墓くらいは作って詫びねば、と思った参謀部の人間は、すぐに苦笑と共に首を横に振る。
そんなことをせずとも、早晩、直に詫びることが出来るに違いない。
そこが、黄泉と呼ばれるのか九泉の下と呼ばれる場所なのかは知らないけれど。





2008.11.18 Sworn F 02 -Back to Back side Foe-

■ postscript

同じ空気を吸うのも耐えられないくらいに、憎んでる。
一国を滅ぼす結果になると、知っていても殺したい。

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