04 □ First Impression side Foe
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グラスを空けてから、男は言う。
「そいつが言うには、人は出会った瞬間に相手への好悪を決めるのだとか」
言葉半ばで、笑いが含まれてくる。
「馬鹿らしいと思わんか?人というのは、腹を割って話してみなくてはわかるまいに」
まるで違う世界に生きていると感じた相手が、話してみると存外に気の合うなど、よくある話だろう、と男は傍らに控える者を見やる。
「さてはて。私の乏しい経験からしますと、外見というのは多くの者にとって意味あるモノであるとは存じますが」
そう言う者は、左目から頬に大きな傷があり、更に左腕が無い。
上手く隠しているが、実の姿を知ると、たいていの人間は慄いてしまう。
屈託の無い笑みのままだったのは、男が初めてだ、といつか語った。
「そんなことをしてるから、こんな素晴らしい人材を逃すことになる」
傍の者は、ただ笑みを返す。



男と彼が出逢ったのは、そんなやり取りから、まもなくのこと。
宮殿で王に引き合わされてだった。
相手の名は知っていた。
東西の要所を任され、人には対のように言われていることも。
互いの存在を意識しなかったわけではなかったし、興味が無かったと言えば嘘になる。
いや、最も注意を向けていた相手というのが正確だ。
だが、何らかの行動を取ったことがある訳ではなかった。
多分、それは、どこかで相手を侮っていたから。



最初の印象は、と問われたなら男はなんと答えるのだろう。
端から見れば、正反対というのが最もふさわしい言葉に思えた。
容姿も行動も声も言葉遣いも、腹心の部下でさえも、何もかもが。
だが、ある一点で男と彼は全く同じだった。
機会さえ訪れれば、己がこの国を握る。
あの日、互いの瞳に同じ色を見たとしか、思えない。
そして機会が訪れた今、国は真二つに別れ、血で血を洗う争いが続いている。
機会を捉えた瞬間の為に男と彼が仕掛け続けてきた策は、あらゆる効力を発揮している。彼が仕掛けてきた中で効いていないのは、男と傍の者への離間くらいだろう。
もっとも、男から仕掛けた離間も同じくなので、五分なのだが。
そう、腹立たしいほどに五分なのだ。
どんなに争っても、均衡は破れない。
国が疲弊し、人が減り、街が失われても。
きっと、男と彼のたった二人になり、一騎撃ちとなったとしても。
結果は五分だ。
もういっそ、その方がいいのではないか。
片目の者は、一瞬浮かんだ考えを振り払うように首を横に振る。
そして、広げた地図に向き直り、今日消えた街の名を黒いインクで塗りつぶす。





2008.11.26 Sworn F 04 -First Impression side Foe-

■ postscript

何事も、経験してみるまではわからない。
同じ人種も、存外に気付くもの。

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