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ニ宮
 羊宮  牛宮

紅狐(ホンフー)が、眉をしかめる。
「また、余計なことをしたな」
「余計じゃないよ、当然の祝福だもの!」
間髪いれず、乳白(ルーハイ)が応じる。
「彼女は、あんな枯れた土地で毎日毎日、真面目に耕してるんだ!」
そう、乳白は、毎日それを見ていた。
彼女が、その細い腕で必死にがんばっているのを。
「貧しい実りにも、不平を言うどころか感謝してたんだよ?祝福にふさわしいじゃないか!」
それを、『余計なこと』とは。
気持ちが、言葉にこもる。語調にあらわれる。
「……まぁ、そうかもな」
納得してそうな口調だが、不満そうな表情は紅狐の顔から消えていない。
乳白のもともと下がり気味の眉が、さらに下がる。
「どうして、そんなに人間を嫌うのさ」
「嫌いなわけじゃない、好きになれんだけだ」
下がり気味の眉のまま、乳白は黙りこむ。
紅狐は、このことだけは、譲らない。
どんなに、やさしい人間たちのことを、話しても。
さてと、と言うように、紅狐は立ちあがる。
「じゃあ、俺は行くから」
「うん、気をつけて」
「ああ」
『行く』と言ったら、ひとつしかない。
『仕事』をしに行くのだ。
牡羊座守護司である、乳白の『仕事』は。
『善良な人間たちへ祝福を与えること』だ。
紅狐が人間嫌いなのは。
牡牛座守護司の『仕事』が、自分とは反対だからかもしれない。
『悪しき人間たちから剥奪すること』
それが、彼の『仕事』だから。
けして、やさしくないわけではないのだ。
こうして、いまも。
自分の仕事が差し迫っているのに、乳白の話に、付き合ってくれた。
だから、いつか。
乳白の話を聞いているうちに。
紅狐も、きっと人間を好きになる。
そう思って、乳白は微笑んだ。
-- 2000/06/12

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