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ニ宮
 子宮  秤宮

羽音が、響く。
炎の色の翼と氷の色の翼がおさめられ、双頭の鳥は首を傾げるように目前の鏡を覗き込む。
次の瞬間。
双頭の鳥がいた場所には、二人の少年が立っている。
炎の色の服を着た少年の名は紅蓮(ホンリョン)といい、氷の色の服を着た少年の名は青蓮(チンリョン)という。
紅蓮はどちらかというとタレ目で、青蓮はきつめの瞳をしている以外は背格好も金の髪もよく似ている。
二人は、双子だ。
そして、双子座守護司。仕事は、人の声を天の言葉として天に伝えること。
紅蓮が人の声を解し、青蓮が天に伝える。
天の鏡を介して二人は双頭の鳥となり、人の世界へと降りて行くのだ。
いま、その仕事から戻ったばかりの二人は、どちらかともなく顔を見合わせる。
「な、意味わかったか?」
青蓮が尋ねれば、紅蓮が首を振る。
「ううん、全然」
言葉を翻訳することは出来るが、意味までがわかるとは限らない。
仕事を離れてしまえば、幼ささえ残る子供だ。
「テンドウ、ゼカ、ヒカ」
言いにくそうに、紅蓮が繰り返す。
「きっと、ゼっていうのか、ヒっていうのか、って訊いてるんだよね?」
えんえんと首を傾げていた青蓮が言う。
「ヒって、悪い意味じゃなかったっけ?」
いつも、いろいろと聞かされている二人は、少しなら難しい言葉も知っている。
「じゃ、きっとゼっていうのは、イイ意味なんだ」
とたんに、紅蓮の顔が輝く。
「あ、じゃ、あの人のところだよ」
「そうそう、良いか悪いかわかればいいんだもんな」
青蓮も、大きく頷く。
元気よく二人は走り出す。

走っていった先は、潔いくらいの陽射しの中で黒いマントに覆われている人、天秤座守護司の黛藍(タイラン)のところだ。
「ねぇねぇ」
騒がしいくらいの和音の声にも、黛藍は動揺した様子はない。
天秤を掲げ持ったまま、静かに腰を下ろしている。
「はかって欲しいことがあるんだ」
「テンドウ、ゼカ、ヒカ?」
が、黛藍は静かに、微かに首を横に振っただけだ。
それは、天秤ではかることは出来ない、の意味だ。
「えー?どうしてぇ?」
「だって、ゼって、良いってことでしょ?」
「ヒって、悪いことなんだよね?」
紅蓮と青蓮は頬を膨らませながら、口々に言う。
が、もう黛藍からは、まったく意思表示すらも返っては来ない。
「ちぇーだ、ケチ」
「つまんないー」
本当は、そう簡単に仕事をするわけになどいかないとは紅蓮も青蓮も知っているが、だからと感情もすぐについていけるわけではない。
唇を尖らせて、走り去って行く。
残された黛藍は。
そっと、天秤の皿に指を走らせた。
-- 2001/11/18

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