全てを記す本が、あるという。
この世で起こることの全てが、記される本があるという。
美しい装丁の荘厳な本なのだという。
どんなにめくりつづけても、終わりの来ない本。
常に刻まれる時を、文字に変じて閉じ込める。
選ばれた者にしか、読めない本。
選ばれない者には、ただ、真白のページが広がる本。
誰もが、選ばれし者を羨む。
全てを知ることができれば、どんなにすばらしいだろう？
そう、夢を見て。
憧れを抱いて。
彼らは、全てを知ることの苦痛を考えようとはしない。
全てを知ることはないから。
彼だけが。
選ばれし彼だけが。
その手を休めず、その目を休めず。
ただ、そのページをめくりつづける。
逃げることも許されずに。
目をそらすことも許されずに。
彼だけが、全てを見つめつづける。
誰にも全てを告げることなく。
誰にも痛みを告げることなく。
-- 2000/08/17