[ Back | Index | Next ]


ニ宮
 瓶宮  Aquarius

苦しむのは、いつも選ばれぬ人々。
天下の珍味などというものが、存在することすら知らない。
なぜなら、彼らは日々の糧すら、ままならない。

枯れた土地をやっと耕して、得た作物も。
織り上げた絹も。
美しく育った娘さえ。
王のため。
それに仕える者たちのため。
全て、召し上げられてしまい。
人に残るのは、豆の無くなった豆がらと。
絶望と。

選ばれぬ人々の中の一人が、夜の闇の中で、自問自答を繰り返す。
このままでいいのか、と。
餓えて、死ぬのを待つだけか、と。
死にたくはない。
だけど、どうすればよいのか。
いつもなら。
そこで思考は途切れてしまう。
なのに、その日は。

自分らを、餓えさせて平気な者たちを、倒せばよい。
彼は、驚いて顔を上げる。
答えは続く。
不満を抱いているのは、自分だけではない。
一声発するだけで、すぐに数百の人々が。
そして、やがては数十万、数百万になるはずだ。
選ばれぬ人々の方が、多いのだから。
不意に思いついた考えに、彼は震えを感じる。
学のない、彼にもわかる。
それは、叛逆だ。
王には、兵がいる。武器がある。
兵たちも、選ばれぬ人々が集められた者たちだ。
故郷に、家族が残されている。
餓えに苦しんでいる家族が。
それに、武器は刀だけではない。
大地を耕す鋤も鍬も、使いようだ。

彼は、瞳を見開いたまま、虚空を見つめる。
出来るか?
時を失わなければ。
彼は、もう迷ってはいなかった。
まっすぐに、立ち上がる。
そして、こぶしを握り締める。

ほどなくして。
大地を揺るがす、民の声が上がる。
奔流がいくように、城を守る関は破られる。
選ばれたと信じていた王は、その命を失った。
-- 2001/11/18

[ Back | Index | Next ]



□ 月光楽園 月亮 □ Copyright Yueliang. All Right Reserved. □