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ニ宮
 原を駆ける金の風 (或いは金風祭)

地上の、とある草原で。
軍が、対峙している。
一方は綺羅な装いの、王の軍隊。
一方は実践的な鎧に身を固めた、反乱軍。
戦場に降り立った女神は、王にその顔を向ける。そして、口の端に笑みを浮かべる。
王が、剣を振り上げる。
「今日の勝利も我らにある!女神は我に微笑んだ!」
その声を合図に、両軍が衝突する。
拮抗する両軍の戦いは互角だ。
が、女神の笑みをうけた王の軍の方が、いくらか押している。
軍の戦闘に立ち、全軍を奮い立たせる反乱軍と呼ばれる軍を帥する将に向かい、白刃が迫る。
その剣を、金に煌く矢が折り砕く。
戦場の中で、まるで星のように煌く金の光。
そして、戦場は大混乱に陥る。
どこに敵がいて、誰が味方なのか。
誰にも、わからない。
ただ、人にわかるのは。
いく筋もの黄金の光が飛んでいることと、それから。
まるで、この草原が戦には関係ないとでも言うかのように、耳の奥へと聞こえる旋律。
迷いもなく、ただ真直ぐに駆けぬける。
目の前では、殺戮が繰り広げられているはずなのに。
まるで、そんなことは、目に入らぬかのような。
一筋の、旋律が聞こえ続けている。
この戦が、いつまで続くのか。
疲弊しながらも、光の筋に守られていると気付き。
諦めるわけにはいかぬと剣を振るい続ける。
それでも、果てしなく続くなくソレに、疲労を感じた、その時。
反乱軍の将は、光り輝く風を見た気がした。
次の瞬間。
旋律も、光の筋も、騒乱も。
全てが、止む。
静寂。
ただ、静けさが、支配する。
そして、将は見る。
血まみれの戦場の真ん中に降り立ち、そして、将の方を、はっきりと見据え。
妖艶に微笑む、女神を。
この戦場に降り注いだ血を、その顔に受けながら、なお美しい笑み。
その白い腕を、つ、と持ち上げ、一方を指す。
そこに近づくのは。
思い思いのモノを手にして、鎧にならぬ鎧をまとい。
そして、反乱軍と呼ばれる将に和すと声を上げ。
人々が、動いたのだ。
王の圧政に、黙々と従いつづけた民が。
先頭に立つ青年が、笑顔を向ける。
「王に不満があるのなら、将軍がいつか勝つことを祈るのみではダメだと、声がしたのです」
「我らも、戦います!」
「共に戦います!」
後ろについて来た人々も、口々に声を上げる。
「家はどうした、作物はどうなる?」
将が口早に問う。
「妻が娘が、守ると言っています、大丈夫」
将の傍らで、必死で将を守りつづけていた騎兵たちの口元にも、笑みが浮かぶ。
「将軍、共に戦いましょう」
「彼らも、仲間ですとも」
将は、剣を振り上げる。
「皆、王を討て!」
人々の声が、怒涛のように王の軍へと襲いかかる。
草原の戦場で。
将と人々は、一体となった。
敗れた王がたどり着いたのは、作物が一粒も実らぬ不毛の大地。
そして、あらん限りの搾取をしたはずの人々の農地には、また豊かな実りがあったという。
王は、その残虐さをあらわにする。
長らく共にあった側近たちでさえも、虐げ、そして。
満を持した将の軍が迫った、その日。
王の喉笛には、金の針が深々と刺さった。
-- 2002/07/17

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