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ニ宮物語

 蟹宮 + 瓶宮


「よう、たまには遊ぶのも悪くないぜ」





「よ、お久しぶり」
急に蟹座守護司、橘橙(チューチョン)の目前に降り立った者に、海がさざめく。
にやり、と笑いながら水瓶座守護司、辰沙(チェンシャ)は波を器用に避ける。
「無駄だよ、海、俺も水に関わり深き者だからね」
ワザと海の癪にさわるようなことを言い、屈託なく笑う。
橘橙は苦笑いを浮かべながら、波面をなでる。
「辰沙がこうなのは、いつものことだろう」
「あ、ヒドイ言い方だなぁ」
傷ついた口調になるが、やはり笑顔のままだ。
「で、どうかしたのか」
このままほっておくと、暇に飽かしていつまでも海をからかってそうだ。橘橙は、早いところ用件に入るに限ると話題を転換する。
「どうもしない」
辰沙は、笑みを大きくする。
「どうもしないけど、桜見に行こうぜ」
「桜?」
「そ、ちょっと見事に咲いてるトコがあってさ」
さわ、と波立つ。
「残念ながら、海辺ではないね」
波が、少々高くなる。
「あのな、たまには橘橙にも息抜きが必要なわけよ、わかる?」
唯一、海の声が聞こえるはずの橘橙を介さずに、辰沙は海に言う。
「いっつも側にいなきゃ嫌だなんて、ワガママ以外のなんでもないって、ちゃんと自覚してるか?橘橙がマジ切れしてみな?お前の声聞いてくれるヤツ、誰もいなくなるんだぜ?」
一気にまくし立てられて、海は重苦しい雰囲気となる。
「それに、土産もらえばいいだろ、お前だって桜、見たいだろ」
引きかかった潮が、少し、戻る。
「な、橘橙に一枝折って来てもらえば、お前も花見が出来る、と」
ぱん、とヒトツ手を打つ。
「ほーら、これで一石二鳥」
なにを指して一石二鳥なのやらさっぱりだが、海は納得したらしい。さらさら、と行って来いと促す。
橘橙は微笑むと、波を、もう一度撫でてやる。
「ありがとう、桜、いいのがあれば持ってくるよ」
言うと、辰沙と歩き出す。
海辺から、すっかり離れてから。
「辰沙、あまり海をからかうなよ」
「ホントのこと言っただけだろ」
まったく堪えた様子なく辰沙は返すと、風を呼ぶ。
「なんだ、随分と内陸まで行くんだな?」
「そ、でもま、見る価値はあると思うぜ」
イタズラっぽく笑うと、風に乗る。
続いて風に乗った橘橙に、辰沙はにやりと笑う。
「宵藍(シャオラン)の笛が珍しく立て続けに聞こえて来たからさ、こりゃ夜桜見物するしかないやなってんで、昼寝やめて出て来たわけよ」
「……?聞こえなかったけど?」
「だろうな、『桜呼ぶ曲』と『やわらかな夜の帳の曲』だったから」
天を越えて地まで届くといわれる笛の名手でもある山羊座守護司の宵藍のことだ。己の笛の範囲を限定したのだろう。
下手な影響が、他に出たら地が混乱してしまう。
その面倒くささを知ってて、立て続けに吹いた。
それは、綺麗な景色が広がっているのに、違いない。
「なるほど……ああ、見えてきたな」
橘橙が目を細める。
月明りに照らし出されて、ほの白く桜の花びらが浮かび上がっている。
彼らを運んで来た風に揺られて、ふわりと揺れた。
「たまにゃ、悪くないだろ」
「海にいちゃ、見られないな」
にこり、と微笑む。
「君の煽動で蜂起した民は、幸せに眠ってるみたいだね?」
言われた辰沙は、言葉につまったようだ。
軽く眼を見開いて、橘橙を見つめる。
「仕事でもないのに地へ下りるには理由がいるからって俺をダシにするのは構わないけど、今度は海を荒立てるなよ、俺がなだめるハメになるんだから」
相変わらず、返す言葉のない辰沙はそのままに、橘橙は満開の桜を見上げる。
「さて、宵藍には悪いけど、一枝もらわないと」
橘橙は躊躇うことなく桜をぽきり、と折る。
それから、にやり、と笑う。
「『小鳥さえずる朝の曲』聞けるの、楽しみにしてるよ」
「はいはい」
やっと口が開けるようになった辰沙は、頭をかきつつ思う。
どうやら、宵藍にもイジメられることになりそうだ、と。



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『ぼんやりにこにこ橘橙と、楽しいこと大好きお調子モノな辰沙』という設定なのだそうですー。神経質でワガママで自己顕示が強い海の相手には、そのくらい大らかな方がよいのかもしれません。というわけで、にっこり橘橙、かなりお気に入りです。
そして、辰沙。余所見さんの描かれる郭嘉に似てるのですよ〜♪大好きなので、もうそれが嬉しくてたまりません。
水繋がりかどうか、『二人は仲良し』ということで、ちょっと息抜き?の二人な話にしてみました。


-- 2002/09/15



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