□ 万籟より速く □ FASSCE-7 □
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案内にたったホーキンズの顔からは、すっかり血の気が引いている。到着した先の客室で待っていたトレインマネージャーの小松も、困惑しきった表情だ。
「忘れ物です」
手で示された方へと視線をやると、確かに、ソファの上にこぶりの正四面体の箱が鎮座している。この車両に乗車していたフィヨトートかシェランドの外交官の忘れ物という判断が、最も素直な結論だろう。
「ですが、停車中に確認なさったのでは?」
その程度のことは、シャヤント急行では確実にやりそうなのだが。
力無くホーキンズが頷く。
「はい、皆様をお見送りさせていただいてから、一番に」
「だが、掃除はしなかっただろう?」
いくらか責める口調で小松が問いを重ねる。
「それは、お客様がいらっしゃるところを先にしなくては間に合いませんでしたので」
当然の対応だろう。駿紀が首を傾げる。
「忘れ物の確認は、どの程度しましたか?扉を開けてざっと眺めた程度ですか?」
「いいえ!」
言葉と共に、強くかぶりを振る。
「ソファの下、洗面台、クローゼット、全て確認させていただきました」
小松が、まだ疑わしそうな表情をしているのに、ホーキンズは必死の表情になる。
「私はルシュテット育ちです。『約』してもいいです」
ルシュテット系の人間にとっては、『約』は命と名誉に関わる絶対のモノだ。そこまで言われて、さすがに小松もそれ以上は言い難くなったらしく視線を外す。
何気ない様子でソファに鎮座している箱を手にした透弥は、ややの間の後、無表情のまま小松を見やる。
「この件は、必要に応じて私たちから総帥に伝えましょう。後の対処は、お引き受けします」
目に見えて、トレインマネージャー肩から力が抜ける。走行開始すぐのトラブルは、たまらなかったのだろう。
「では、お任せいたします」
これで自分の用は終わった、とばかりに、さっさと車室を出るのを見届けてから、駿紀と透弥はどちらからともなく顔を見合わせる。
客が降りてから箱がここに置かれたのだとしたら、意図的だ。駿紀もその可能性は高いと感じたが、箱を手にした透弥は確信している。
となると、客室係の証言に嘘はないと判断していい。
ホーキンズへと二人の視線が向かう。
いくらか所在無げに見返した青年に、駿紀が尋ねる。
「忘れ物の確認をした後、鍵はどうしました?」
「もちろん、かけました」
その点は自信があるらしく、きっちりと見つめ返してくる。
「わかりました」
頷き返した駿紀の後を、透弥が引き取る。
「これはお願いなのですが、車室に忘れ物があったことは心に留め置くだけにしておいていただけませんか?」
ホーキンズは、意味がわかりかねたのか、いくらか目を見開く。
「ようは、誰にも言うなって意味ですよ。仕事仲間にもね」
駿紀が噛み砕くと、こくり、と頷く。
「わかりました」
「それから、貴方の担当の車両は乗降が多いので、またこんなことがあるかもしれません。その時は、マネージャーではなく、私たちに教えてもらえませんか?」
それは、職務規定に関わることだ。困った表情になったのを見て、こちらの立場が伝わっていない、と気付く。
胸ポケットに常備している警察手帳を取り出して示す。
「天宮総帥に依頼されて乗車しているリスティア警察の者です。ご協力いただけるとありがたい」
手帳を目にして、ようやく腑に落ちたのだろう。それに総帥の依頼ならば、堂々と従えるとも納得したようだ。先ほどよりも深く頷く。
「わかりました、必ず」
客車係に協力を取り付けてしまえば、後は透弥が手にしている箱だ。
ホーキンズが最後尾の車両に鍵をかけるのを見届けてから、自分たちの客室へと戻る。
「で?」
駿紀は、透弥が手にしたままの箱へと視線をやる。
「見ればわかる。念のため言っておくが、開けるな」
「?」
差し出されたソレを、素直に受け取った瞬間に顔を引きつらせる。微かに鼻をつく臭いを、知っている。
「おい、コレ爆弾じゃないか」
「ホシは走行妨害どころか、明確に殺意を持っている」
透弥がソファ下に置いた荷を覗き込みながら、あっさりと返してくる。
「というか、うっかりしたら俺ら真っ先に木っ端微塵だぞ」
「だから、そうならないようにする」
「どうやって」
不審そのもの顔つきの駿紀に、透弥はなにやらビッという張りのある音をさせながら振り返る。
「テープ?」
「フタを止める、動くな」
「だから、命令形は止めろっての」
唇を尖らせつつも、駿紀は大人しく透弥がフタを箱へと貼り付けやすいように持ち替える。その行動で、おおよそのタイプは想像がつく。
「フタ開けたら、なんかが信管に導通してドカン?」
「ああ」
「フタ止めるくらいでいいのか?」
何かの弾みでフタになされているであろう細工が壊れてしまえば、爆発は確実だ。列車全てが木っ端微塵とはいかないが、ごく傍にいる人間は命が危ういか大ケガだろう。
「完全とは言えない」
無表情なまま、透弥はフタを止めた箱を受け取ってひっくり返す。
「どうする気だ?」
「分解する」
きっぱりと言い切ったのは構わないのだが。
「分解って、神宮司が?」
「俺以外に、誰がいるんだ」
面倒そうに返し、追いやるように手を振る。
「隆南は車内の点検にでも行って来い」
「でも」
爆弾の分解は、造りがわかっているのだとしても危険を伴う作業だ。万が一が無いとは言い切れない。それを透弥一人にやらせていいものか、と迷ったのだ。
「そこに突っ立っていても、役立たない。点検ついでに、枕かクッションか手に入れてきてくれ」
駿紀の考えを察しているのかいないのか、冷たい口調が重なる。その手はすでに裏返した箱の底を剥がしにかかっている。
確かに、今、ここにいても駿紀に出来ることといったら、ただ見ているだけだ。
分解方法はわからなくとも、志願兵役の経験上、解体した後がどうなるのかは知っている。透弥の所望通りクッションを手に入れてこなくてはなるまい。
「わかった」
頷くと、駿紀は車室を後にする。

ざっと車内を歩いて回って異常が無いことを確認し、適当な理由をつけて二つ目の枕を確保してから車室へと駿紀が戻ると、ちょうど透弥は爆弾の核となる信管を取り出し終えたところだった。
手にしてきたそこらのクッションよりふかふかの枕で受け止めると、うっすらと額に汗をかいた顔がこちらを見上げる。
「タイミング良かったな」
笑みを向けると、さすがの透弥も緊張はしていたのだろう、小さく息を吐いてから口を開く。
「それを包み込んでしまった方がいい」
「ああ」
信管はショックを与えると、破裂してしまう。火薬から出来るだけショックを吸収する状態にして、火薬から離してしまうに限る。
うまいこと巻き込んで、現状可能なだけ火薬と信管を離してから、駿紀は透弥へと改めて向き直る。
当面の危機を脱したのだから、次にやることはヒトツだ。
「さて、問題は『誰が』だな」
「客車係の証言が無くとも、フィヨトートとシェランドの置き土産とは考え難い」
透弥らしからぬ断定に、駿紀は意義を返す。
「外交官個人でも?」
「トーヅル・ホスクルドソンとイェンス・ニルセンがその手の思想に傾いているというのは考え難い。特にこういう場に選ばれてくるのは」
相変わらず、すらすらと名前が出てくることに感心しつつも、駿紀は肩をすくめる。
「フィヨトートとシェランドがケンカ売る理由も無いしな。それに加えてホーキンズの証言は信憑性がある」
「『約』を持ち出したとなると、そう判断していいだろう」
透弥も頷く。
ルシュテット育ちがそこまで口にするのだ、それもが嘘だというのなら相当な悪人ということになるが、二人の目から見てそれは無いと判断した、ということになる。
「ってことは、やっぱ」
そこまで言って、駿紀は口をつぐむ。が、透弥がきっぱりと言い切る。
「仕掛けたのは、スタッフの誰かだ」
「ジェフ・ホーキンズは除く、な」
先ほどのやり取りで、彼は絶対に嘘がつけない人間と確信した。そういう人間も存在すると知っているし、警察官としての経験で見分けもつく。透弥もそう判断したからこそ、警察官と言うことを伝えるのを止めなかった。
「中で怪しいのはやっぱり、マスターキーを持ってるのってことになるな」
「少なくとも、浅田とヘーゲルの可能性は低くなった」
ルシェルで話した運転士と、運転士補助だ。駿紀も頷く。
「爆弾なんぞで車体木っ端微塵にされたら、彼らが真っ先に犯人つるし上げ兼ねないよ」
それくらいにシャヤント急行の車体自体を大事にしているのでなければ、ああいう確認の仕方にはなるまい。
「一度、顔見てみなきゃならないけど、もう一人の運転士補助もな」
言ってから、首を捻る。
「シェフたちにも、わざわざ客室に行く時間なんて無さそうだったけど」
「トリヤでの補給量は、そうは無かったようだったが」
「あ、そうか。そうするとレストランスタッフの方がむしろ時間あるな。どちらも鍵の問題はあるけど」
言ってから、軽く唇を尖らせる。
「でも、これってあくまで実行犯だもんなぁ」
「乗り込んでいるのが単独という確証はどこにも無い」
「尻尾掴むまでは、イタチごっこするしか無いってか」
吐き出すように駿紀が言うと、透弥は無言のまま肩をすくめる。口してもしなくてもそれが事実だ、ということだ。
「誰にせよ、少なくともお嬢さんにケンカ売る気満々ってのだけは確かだな」
「最終的に、大いに後悔することになる」
きっぱりと返した透弥に、駿紀も口の端を持ち上げる。
「当然」



ミシス到着は、ファーストシッティングの最中のの19時45分だ。車窓からいくらかでも状況を見ておこうと、駿紀たちは二人掛けの席に陣取っている。
「あれがコルデルの外交官だな」
「エンヴェル・ベルーシだ」
低く返ってきた声に頷いてから、駿紀は小さく首を傾げる。
「そっちは?」
「今回は貨物係とこちらの客車係も出ている」
「シェフたちは料理の最中だろうし、スタッフはこちらの相手だしな」
納得して頷く。
乗車するのは一人とはいえ、小松とホーキンズはけしておろそかにする気は無いらしく、丁寧に挨拶をしているのが駿紀から見える。
「さすがに運転士は」
「前にいる人影がそうだろうが、はっきりと誰がいるとは言い切れない」
「よな」
駿紀が返したところで、ミシス到着後、しばらくしてから中座していた紗耶香が戻ってくる。
自分の席へと向かいつつ、何気なく透弥の皿の下に何かを挟みこんで行ったのを、駿紀は見逃さない。
空いた皿を下げようと近付いてくるメートルデトルが到着する前に、透弥はほとんど無駄な動き無く紙片を手に落とす。
皿が入れ替わってから、ほんの一瞬、視線を走らせる。
「厄介モノ込みで、依頼完了」
厄介モノとは、先ほど透弥が解体した爆弾のことだ。紗耶香に伝えると、すっかり総帥の顔つきで彼女はソレも引き渡す、と判断を下した。
そして、厄介モノを持ち込んだ者の正体を探ることを含め、相手は承知したのだ。
「餅は餅屋、か」
ぼそ、と駿紀が呟く。紗耶香が解体済みの爆弾を引き受けながら言った言葉だ。確かに爆弾には作り手の特色が出る。が、それを読み取れる人間は、それなりの専門性が要求される。
彼女が頼んだ相手は、そういうことを知っている、というわけだ。
「探らない約束だ」
「この程度じゃ、探りようないだろ」
が、このまま黙ると考え続けてしまいそうなので、思考を切り替えることにする。だいたい、せっかく美味しい料理が並んでいるのに、事件のことばかり考えているのも無粋だろう。
通過していく国の料理を少しずつ取り入れることにしている、という食事は、昼とはまた違った雰囲気だ。
「シェフ、凄いよな」
「そもそもは和食が専門だそうだ」
聞き流されるかと思っていたので、駿紀は少し目を見開く。それをどう取ったか、透弥が言葉を継ぐ。
「ウォッカを譲ってもらう時に聞いた」
「へえ、ますますスゴイな」
シェフもだが、何気無くそんなことを聞き出してくる透弥もだ。もっとも捜査の時のことを考えれば、その程度といったところかもしれないが。
列車が発車してしばらくしても、連絡は何も来ない。
「ひとまず、ミシスで何かってことは無い、か」
「相手はまだ、失敗したと気付いていない可能性はある」
透弥の言葉に、駿紀も頷く。
忘れ物の状態で置かれていれば、最終的にはコルデルの外交官が手にする可能性まで考えるべきだ。
「もしくは、そういうことにしたいか」
特に小松が関わっている場合は、そういうことになる。
「気付いていても、毎回のように妨害工作というわけにもいくまい」
「完全に実行してるのがスタッフと知らせるようなもんだからな」
二度までも工作が失敗したとなれば、さすがに内部に邪魔している人間がいると、相手も気付く。
多少は、慎重になってもくるだろう。
「次はどこで来るか」
加速していく車窓へと視線をやりながら、駿紀は呟く。



二人の前には、完全に分解された二つ目の爆弾だ。
ホテル並みに薄暗い灯りの中で、一時間近く回線と睨めっこし続けた透弥は、さすがにうんざりとした表情でソファに頭を預けている。
ホーキンズが二両目の三番目の車室に来て欲しいと告げに来たのは、シャヤント急行から二度目の朝日を拝む前、ルジュクセ首都スティノを発車したばかりの5時40分だった。ヴォツェビナ外務大臣ダリオ・ゴトヴァツが下車したばかりの車室だ。
二人が行ってみると、前回よりは大ぶりの箱が、こじんまりと備え付けられたクローゼットの中から出てきた。
戻ってきて確認してみると、またも、だったのだ。
駿紀は、電灯を出来るだけ引っ張り出して、延々と透弥の手元を照らし続けていた腕を回してほぐしながら首を傾げる。
「同じヤツだと思うか?」
「クセを変えようという意図は見られるが、同一犯だ」
瞼を閉ざしたまま、だが声はいつも通りの冷静さで返ってくる。
「置いた方も、トリヤのと同じヤツだよな」
言ってから、不機嫌に唇をとがらせる。
「それにしても、イマイチわかんねぇな」
「本気でシャヤント急行を狙ってるように見えない、と言いたいわけか」
透弥に言われて、駿紀は不機嫌な顔のまま頷く。
「二つとも、せいぜい車室ヒトツがめちゃくちゃになる程度だ。それでもとんでもないってことには変わりないけど」
「列車自体を狙ったにしてはお粗末、と言えなくはない」
「嫌がらせなら、別に爆弾じゃなくていいだろう」
他に、客に不快な思いをさせる方法ならばいくらでもある。なのに、なぜいちいち空き室に爆弾を無造作に置くだけなのか。
相手の意図が、まるで読めない。
透弥が瞼だけ開けて、面倒そうに口を開く。
「少なくとも、ミスリードは誘おうとしていた」
「ミスリード?」
「ヴォツェビナとボチェコシシアの複雑な民族紛争の存在は、『Aqua』の人間ならほぼといっていいほどに知られている。だが、詳細を知る人間は少ない」
確かに、透弥の言う通りだ。駿紀も、ヴォツェビナのどの民族とボチェコシシアのどの民族が結びついているのか答えろと言われたら、答えに窮する。
「この爆弾の中に、民族紛争を装ってるモノが紛れてたってことか?」
「ただし、あり得ない組み合わせで」
「でも、もし、その意図通りに判断されたなら、個人を狙ったサイズの方がしっくりは来るな」
目元をほぐしてから、透弥はまっすぐに駿紀を見上げる。
「あの車室に次に乗車するのはボチェコシシア外務大臣エドヴァルト・ハヴェル。彼はダリオ・ゴトヴァツと最も反目し合っている民族の出身だ」
駿紀の考えを確定する事実だ。
「ってことは、前回のといい今回のといい、シャヤント急行自体をどうこうしたいってわけじゃないってことになるな。そこで困ったコトが起こればいいだけで」
「ヴォツェビナとボチェコシシア、その周辺国の人間は容疑者から外れる。彼らは民族紛争を他人事に出来る状況に無い」
ようは、あり得ない民族紛争を装うようなバカはしない、ということだ。
「逆に、そちらを狙ってるってことは?」
「各々の国で狙った方がよほど早く決着がつく」
「そりゃそうか、あえて他国にケンカ売る必要無いもんな」
だが、結局は何もわかっていないも同然だ。駿紀は、くしゃくしゃと髪をかき回す。
「わっけわかんねぇな、くそっ」
悪態に応える気力は無いらしく、透弥は、また瞼を閉ざして頭を後ろに預けてしまう。



ホラント首都アペルダムに到着したのは定刻の9時19分、停車時間はほぼ一時間だ。
補給に時間がかかるのではなく、駅前すぐに色々とあるので、せっかくだから停車して観光でもいかがかとホラント側から提案されたのだと紗耶香が言っていた。
アルカリアと同じく警備にあたっているのは軍の一隊だが、こちらの隊長は愛想がいいし、セース警察のようにわざわざ階級を確認しても来ない。
「外部の侵入者は、絶対に我らが阻止します。ですから、ぜひ、我が首都を見学していらっしゃいませんか?美しいですよ」
そこまで言われてしまうと、一応は外へと出なくては悪いような雰囲気になってしまう。まさか、問題は内部にあるとは言い難い。
「はー、駅舎からして、見事なもんだな」
少々身の入らない口調で、駿紀が言う。
「どうせ見るなら、運河の方かと思うが」
透弥も平坦に返す。素直に振り返った駿紀は、目を見開く。
「うわ、この駅って島にあるのか?」
「アペルダムは幾本もの川が合流して、分岐する街だ。運河で出来上がっていると言っても過言じゃない」
美しい、と愛しそうに言った隊長の気持ちが、少し理解出来て駿紀は笑みを浮かべる。
「なるほどな、これは駅舎の中じゃわからない」
シャヤント急行停車中のホームの様子が気にならないわけがないが、ここまで出てきて、そちらばかりに気を取られているのは勿体無い気にさせられる景色だ。
軽く見渡すだけでも、そこかしこを小さな船が行き来しているのが見える。
が、近付いてくる足音に気付かないほどに、見入るわけでもない。
横へと視線をやると、相変わらず眼鏡に帽子といういでたちのアルマン公爵が口元に笑みを浮かべる。
「やあ、お二方も外に出られたのですね」
「ええ、警備隊長に美しいからぜひ、と教えてもらいまして」
駿紀が返すと、アルマン公爵はゆったりと頷く。
「そうですね、ここはとても美しい。ですが、お二人はホームに残られたかと思っていましたよ」
言い回しがどことなくおかしい気がして、駿紀は首を傾げる。
「どうしてですか?」
「昨日から、随分とよく車内を見回ってらっしゃるようですし、今朝も早くからお忙しそうでしたでしょう?」
アルマン公爵は、駿紀をまっすぐに見て口元に笑みを浮かべる。
色付レンズの向こうの瞳は見えないが、射抜くような視線を感じて、駿紀は表情を改める。

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